第490話 キタネェお正月編(part5)


   *


「行くぞぉおおおメロニアスぅううう……おメンコメンコォッ!! メンコッコォオオオオオオオオオォオ!!!」

「ぎゃぁぁあうるせぇ!!」

「新年早々ヘルヴィム神父は全開だぜ!」


 庭先に見えるは、群れを成した筋肉軍団が遠くに消えていく光景と、黒ずくめの男達に囲まれたメロニアス。


「皆さん元気ですねぇ」


 チビチビと酒をやりながら、一人テレビの前に座り込んだフロンス。彼はするめを咥えながら、興味も無さげに庭先で上がった炎の柱を眺めてあくびをした。


「いぃぃぎゃぁぁあぁぁあアヂィイイイイイイ!!!!! コォオオラァァア、火槌を使う奴があるかぁあッメロニアスゥウウウ!!」

「ギャァァァ……俺達ごと焼き払ってんじゃねぇよぉお」

「やれやれですなぁ主様……」


 彼方へ吹き飛んでいった黒のスータン達と平静なままの執事……賑やかな彼等とは反対の庭先では、鴉紋達によるお正月勝負最終決戦が行われんとしていた。


「いいのか鴉紋……既にこちらは2敗1分け、普通に考えれば俺達の敗北だ」

「お前を叩き潰さねぇで何が勝利だ、知っての通り俺は残虐な性格をしていてなぁ」

「ふん、ならば良いだろう……」


 最終決戦、鴉紋対ダルフにて行われるお正月勝負第四回戦……その内容は双方同意の元に決定した!


「いくぞ鴉紋」

「かかって来やがれ……」


「「野球拳で勝負だ!!!」」


「えっ」

「は?」

「なぜ……」


 残された者達は、いよいよとお正月とはかけ離れていく行事にポカンと口を開けていく。


「いいかダルフ、貴様をこの寒空の下にスッポンポンにして屈辱を味合わせてやる!」

「それはこちらの台詞だ……情けの無い姿で年を始めたお前は、今年一杯惨めな思いを引きずる事になるだろう」


 並々ならぬ眼光を突き合わせた二人を前に、リオンとセイルはウンザリとしながら話し始めた。


「さっきからなんなのよここの男達は……下品なネタばっかりじゃない」

「結局あれこれ理由を付けて脱ぎたいだけなんじゃないの?」

「あ……兄貴ぃ」


 互いに腰を深く落とし、背後に引き絞った右腕……


「いくぞダルフ――!」

「うおおおおお!! アウト! セーフ! よよいのよい!!」


 迫真の気迫で始まった闘争の声。一度目の勝利を飾ったのは……


「チッ……」

「お前の負けだ鴉紋、この極寒の中で服を脱ぐがいい」


 鴉紋の投げ捨てた羽織の一枚が寒風に乗って流れていく。


「アウト! セーフ! よよいのよい!!」

「く……っ」

「脱いで貰うぜダルフ」

「わかっている……」


 同じく羽織一枚を脱いだダルフ……そして勝負は白熱していく――


「アウト! セーフ! よよいのよい!」


「何やってんだよ兄貴ぃ……」


「アウト! セーフ! よよいのよい!」


「二人の着物がまたたく間に脱げていっちゃうよぉ」


「アウト! セーフ! よよいのよい!」


「凍えて死ねばいいのよ」


 やがて二人はあられもない姿で向かい合っていた。鳥肌の立った体をガタガタと震わせ、紫色の口を開き合う。


「あ……あと……一枚だなダルフ」

「貴様……こそ……っ」


 薄雪の舞う極寒のお正月……庭先に向かい合うは、赤いブーメランパンツの鴉紋とティーバック姿のダルフ。


「あんな服どこで買うのよ……」

「……さっき二人共、ここのブティックで買い物してたよ」

「ピーターに言わせればアレも前衛的って事ね……相変わらず理解不能だけれど」


 手に汗握る接戦となったお正月勝負第四回戦……運命を決する最後の咆哮が二人の口から放たれる。


「アウト!!」

「セーフ!!」

「「よよいのよ――――」」


 ――その時、土煙を上げて猛然と走り寄って来る男がいた。


「パォッ!! パオパオパオオッ!! かわいい鏡餅が二つぅううう!!」


 なんとそこに走り込んで来たのは、クレイス達の肉の壁を超えて来た血眼のピーターであった。


「Paaooooooo――ッッ!!」


 理性を失いながら二つの鏡餅へと飛び込んでいったピーター。

 だがしかし――


「――ヒィゴォッ?!!」


 獣の様な男の右半身が炎に、残る左半身が氷結に押し固められていた――


「アチチチッ!! つめたたたたッ!! 小娘共ぉお!! ぐぁぁぁあ!!!」


 身動きの取れなくなったピーターは、立ったまま気を失ってしまった……


「助かったセイル」

「ありがとうリオン」


 同時に礼を言われ、何とも言い難い気持ちとなって視線を合わせたリオンとセイル……


「ん……」

「あ……」


 次の瞬間、セイルの火の粉に鴉紋のパンツが千切れ、飛び散った鋭利なる氷結がダルフのティーバッグを切り裂いた。


 ――はらりと舞う小さき布二つ……


「な――」

「ワワワぁ――!」


 二人のが完全に露わとなるその瞬間を、彼女達は顔に手をやりながらも指の隙間から待ち受けていた……


 しかし――そこに開かれた天使の翼が、カーテンの様に少女の視線を遮った。


「ほうほう……これは」

「ミハイル……様」

「お前……っ」


 リオンとセイルを背にしたまま、一人堪能する様に二人のソレを眺めていったミハイル。


「とんだお年玉だ……」

「コ……っ」

「ぐ、ぬぬ」


 恥ずかしさに赤面しだした鴉紋とダルフ。そこにピーターを捉えに来たクレイス達が走り込んで来て、あられもない二人の姿に目を白黒とさせた。


「なんと……コレはっ!!」


 目を見開いたクレイスは鴉紋のソレを眺めてひざまずく。


「猛々しい……!」


 そして次にダルフのソレを眺め、


「神聖だ……!」


 と言い放ち、ウンウンと頷いて涙を流した。


「二人共よく頑張ったね、実に良いモノを見せて貰ったよ」

「な……っ」

「ぅ……」


 言われて堪らず股間を隠した二人。ミハイルはニッコリと微笑むと、ネジの切れた様に笑い始めた。


「アハハハ、アハッ! アッハハハハハハ!! 帰って寸分違わず模写するからね」

「ふざけんなこの野郎!!」

「そ、それはミハイル様……」

「ちょっとミハイル、その翼たたみなさいよ!」

「邪魔なのよ見えないでしょう!」

「あ〜……嬢ちゃん達なぁ〜」


 有耶無耶となってしまったお正月勝負……

 新年を告げる除夜の鐘が、ゴーンと都に響き渡った。


   *


「フフッ……うっふふふこの子もいいなぁ」


 その頃、一人コタツに残るフロンスはまだテレビに釘付けであった。


「立派になったねぇ〜強くなりますよぉケンタ君はぁ……ウフフ」


 満面の笑みでフロンスが観ているのは、彼が独自に録画、編集した教育番組『子どもだけのおつかい』三十六時間耐久映像であった。


「ふふふふふふ、フフッ、ふふふふふふふ、あ、タカシくんの回ですねぇ、溝にハマって泣いちゃう所からの奮闘がなんとも涙を誘って……うんフフ、ウフフ」


 なんだか外が騒がしいとカーテンを締め切ったフロンスは、またコタツの前に座ってみかんを剥き始めた。


「マッシュの出演依頼も毎週欠かさず出しているんですが、早く採用されませんかねぇ……」


 各々の時を過ごすお正月……

 まぁ何が言いたかったのかといえば、お正月位はそれぞれ好きな様に過ごせば良いんじゃないかなぁ、という事である。

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