第489話 キタネェお正月編(part4)


   *


「……あい……そえデは気を取り直しえ……お正月しょーう第三回戦といきまひょう」


 何があったのだろう、その顔を蜂に刺されたかの様にブクブクに膨れ上がらせたピーターが、お正月勝負を進行していく。


「もう難癖付けられるのも嫌なので、ルーレットで決めます……」


 背を丸めて縮こまってしまったピーターがルーレットを回す。


「最初からそうしやがれこの変態野郎!」

「ぁい……おっしゃる通りです」


 ピーターはシクスに尻を蹴り上げられるも、なんの反応も見せずにルーレットが止まるのを待った。


「対戦相手が決定したわ。アンタと私の対決よ凶悪面」

「イィいいっヒヒヒハハハ、久し振りの出番で滾って来たぜぇえ!! オラ! オラァ!」

「おい、対戦前の相手に危害を加えるのは反則だろう!」

「いいのよダルフくん……私の尻は鋼で出来てるの、はぁそれにしてもやる気が出ないわ、わざと敗北して終夜鴉紋の足でも舐めようかしら」

「ピーター……」


 腕を組んで仁王立ちとなったリオンの気迫に、ピーターはまた背を丸めながら、対戦内容を決めるルーレットを回し始めた。

 ……やがて止まるルーレット、そこに示されていたのは皆が驚愕とするしかない衝撃の対戦であった。


「ツイスター……ゲーム……」

「あ? んだそれは?」

「ィィいいよっしゃァァァ!!!」

「ンぁ――ッ!!!?」


 波動打ち上げながら肉を軋ませるピーター、彼の目が怪しげに輝き始めた事にシクスは気付く。


「ツイスターゲームってなんなの鴉紋?」

「ボードに記された色に交互に触れながら限界を競い合う競技だ」

「知らなかった、それってお正月の遊びなの?」

「いや、全く違う」


 十八番のゲームを引き当て、息を吹き返したピーター。先程まで丸まっていたのが嘘であるかの様に闘志に満ち溢れた面相でシクスに指を突き付けていく。


「相手がテメェで残念だぜぇえ!! ヒヒョオオオ、そして同時に哀れにも思うぜ、なにせこのツイスターゲームは私の為にあるかの様なゲームなんだからなァ!」

「んだ急に息巻きやがって、その口調だとまんまオッサンだぜ」

「あん……っ、ごめんなさい、つい熱くなっちゃったわ。淑女たるもの気品を保たなきゃっていうのに……」

「不気味な奴だぜ……」


 指を咥えて上目遣いをし始めたピーター。彼の情緒不安定に付き合い切れずにシクスは舌を出して困り顔だ。


「さぁやりましょう! 喜怒哀楽のツイスターゲームをね!!」


 そして始まる、誰も嬉しくない狂気のゲーム……


「ルールは簡単よ、審判のダルフくんがルーレットを回し、色と次に動かす手足を指定するわ。それを交互に繰り返し、尻や膝を着いたり、マットに記された色からハミ出した者が敗者よ」

「つまりなんだぁ、テメェと揉みくちゃになるっていうのかよ俺は……」

「なに喜んでるのよ変態。ツイスターゲームはアンタのようなハレンチが欲を満たす為のゲームではない……お遊び無しの真剣勝負よ」

「ならいいんだけどよ……嫌な予感がするんだよな」

「これは体幹と予測がものをいう奥深いゲームよ……ちなみに、相手に直接的な危害を加えるのは反則行為になるから覚えておきなさい」

「チッ、いいからとっとと始めろよ」


 4色の各6個となる丸が並んだマットに二人が立ち会うと、ダルフがルーレットを回して交互にお題を読んでいく。


「シクス。左手を赤へ」

「こうか……?」

「ピーター左足を青へ」

「フフン……」


 やがてゲームが進行し――


「がは……な、何だこりゃあ! 俺はなんでブリッジさせられてんだ?!」

「馬鹿ねぇ……そうなったら手詰まりよ」


 いつしかマットの中心でブリッジしていたシクス。ピーターはというと、四つん這いになりながらも未だ余裕を残している。


「くっそ、追い詰められちまった!」

「それはツイスターゲームにおいて手詰まりともいえる姿勢よ。そうなる前に手を打てないなんて二流、いや三流よ。ルーレット次第でアンタはもうすぐにでも敗北する」

「ピーター左足を緑へ」

「あら……凶悪面の向こう側の色じゃない困ったわ」

「へへ……キッへへへ! 神にそっぽ向かれたのはテメェの方だったな!」

「それは……どうかしら、でも貴方に制空権を取られているのは事実……ならば私は当然、下から行くわ」

「下?!」


 そして更にと進行していったツイスターゲーム……


「な……」


 マットの上でもつれ合った彼等を認め、リオンは青褪めた。


「なにがどうなったらこうなるのよ……」


 ――ブリッジしたままのシクスと頭を反対にして、その下でピーターがブリッジをしていた。


「くァァァ!!! キツイィィ!!」

「うわァァァ動くなテメェ! 俺のケツに顔を埋めてんじゃねぇ!」


 顔をブンブンと振り乱し、シクスのケツを頬でプリンプリンし始めたピーター……


「おいいい! これは俺に危害を加えてるんじゃねぇのかぁ、反則だろうがぁあ!」

「あっぷあっぷ……ぶふぅおッ」

「ヒィイイイ!! 熱い吐息を割れ目に吹き込むんじゃねぇえ!!」


 シクス必死の抗議であったが、顔を真っ赤にして笑いを堪えたセイルがそれを否定した。


「いいえシクス……ぷっふ……その人はルールに従って順当に指示を遂行しているだけよ……ぷっ」

「あぷぉ、アプぉ!! ケツに溺れるぅう、シアワセぇ!」

「ギャァァァ!!」


 身体の柔軟性という面で秀でたシクスも、これには堪らずぷるぷると震え出した。


「シクス右足を青へ」

「青……!」


 猫の様にぐりんと反転して屈辱の姿勢より脱したシクス。憎き眼光で未だブリッジしているピーターへと振り返ると、そこには若い尻を堪能しきって恍惚としているピーターの表情があった。


「この変態野郎! やっぱりテメェの欲を満たす為のゲームじゃねぇか!」

「なに……言ってるのよ……私はルールに従っただけ、言うなれば今のはラッキースケベよ」

「んだそりゃあ!」

「ふふふ教えてあげるわ……私はね、このツイスターゲームをやると、必ずと言っていい程ラッキースケベの目をだせるの」

「はぁ?」

「私はね……ツイスターゲームの神に愛されているのよ」


 そして進行し、遂に佳境へと差し迫って来たツイスターゲーム――


「おい、何だこいつは……」


 絶句した鴉紋が認めたのは、四つん這いとなったシクスの顔の下で、逆さまとなった顔を徐々にと持ち上げていく……またもやブリッジ姿勢となっているピーターの姿であった。


「寄るなぁぁあ!!」

「寄るなって言われても! ブリッジは肘をピンと伸ばさないとキツイのよ、アンタこそもっと姿勢を上げたらどうなのよ!」

「オメェの図体がデカすぎて意味がねぇんだよぉお!!」

「そんな事、乙女に言うんじゃねぇ!!」


 姿勢を限界まで上げて、下から近付いてくるピーターの唇より逃れようとするシクス。ピーターはピーターで四肢を広げた姿勢でのブリッジの為、肘をピンと張らなければとてもじゃないがその姿勢を維持出来ない。


「こうなったらここで勝負を決めるしか無いようね!」

「……あ!?」

「私とアンタの接吻チキンレースよ!」

「やめろォおお!!」


 姿勢を持ち上げていくピーター……彼の唇が四つん這いとなったシクスの顔面へと近付いていく。先にこの唇より逃げ出した者が、このゲームの敗者となるのだ。


「ちくっしょおお! でも負けられねぇ……俺は兄貴の為にも、絶対に負けられねぇんだよお!!」

「シクス……お前そこまで」

 

 崇拝する鴉紋に敵の言いなりになるなどという醜態を決して負わせたくないシクスが、その熱き眼差しで眼下のピーターに憤激した顔を向ける。

 だがそこで、目と鼻の距離まで接近したピーターが、瞳をカッと見開いてシクスの顔を凝視し始めた。


「あんた……」

「来るなら来やがれ変態野郎!!」

「あんた……近くで見ると思ったより良い男ね」

「ぃいいいい……ッ!!」


 急に態度を変えたピーターにシクスは愕然と汗を垂らす。


「れろんれろんれろんチュプレリロ……」

「はァァァァッ!!!」


 舌を突き出してベロンベロンとし始めたピーター……だがそれでもシクスは逃げ出す事無く、固くその目を瞑ってはずかしめを待った……


「………………ん?」

「な、ちょっと!! 何よアンタ達は!」


 まぶたを緩めたシクスが見たのは、反則行為を犯したピーターの腕を持って引き上げる、クレイスとポック、その取り巻きの筋肉軍団であった。


「お、お前ら……!」

「シクスさん、助けに来たっす!」

「おいピーターとやら!! 貴様は今、指示された行為以外でシクスに危害を加えようとしたな!」

「なによこのムキムキ軍団!」

「よって貴様に、ペナルティを科す!!」

「え、え、えナニ!!?」


 ピーターの巨体が空へと舞い上がり、背を向けあった筋肉軍団の中心点にスッポリと収まる。


「いくぞお前達ぃいいい!!! おっしくらまんじゅう押されて泣くな!!」

「「おしくらまんじゅう押されて泣くな!!」」

「おっしくらまんじゅう押されて泣くな!!」

「ぎゃぁぁああつぃいい暑苦しぃいい!!!」


 蒸気を上げた浅黒い肉の塊に連れ去られていったピーター。九死に一生を得たシクスが腕を振り上げる。


「おっしくらまんじゅう!」

「おっしくらまんじゅう!」

「おっしくらまんじゅう!」

「あん……最高……」

「おっしくらまんじゅう」

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