【番外編2】

第486話 キタネェお正月編(part1)


 1月1日……

 薄雪に積もられた新年の朝。


「皆様、あけましておめでとう御座います」


 巨大なコタツの中心に座したフロンスが頭を下げると、横並びとなった面々が声を揃えた。


「「おめでとう御座います」」

「本日はピーター・ウィルフォットさんのブティック『ラブハリケーン』を貸し切り、改修して、このお正月会を実現した運びとなっております」

「勝手に改修するんじゃないわよ……」


 新年らしい衣装に身を包んだ彼等は、静々と語り始めたフロンスを窺っていく。

 並びは左から、シクス、セイル、鴉紋、フロンス、ピーター、ダルフ、リオンとなっている。


「輝かしき2022年、新年の御挨拶を努めさせて頂きましたのは、長く続いたこの作品『悪逆の翼』人気投票ブッチギリ一位のフロンスで御座います」


 そんな挨拶に鏡餅の乗ったテーブルを揺らして異を唱えたのは、着物を着崩したシクスと、やたらとド派手に飾り上げたピーターの二人。


「おいおいオッサン! なんで人気投票一位が主人公の兄貴じゃねぇんだよ!」

「そうよそうよ〜! プリケツ一位の座はダルフくんだって決まってるんだから!」

「黙れ下郎共ッ! 視聴者の声に異を唱えるな!」

「ぐ……」

「なによ〜更年期かしら、イヤねぇオジサンって」


 項垂れたシクスがコタツの上のみかんを剥いて食べ始めると、やや緊張感の溶けて来た現場でフロンスは前へと向き直った。


「皆様、昨年は『悪逆の翼』をごひいきにして頂きありがとう御座いました。クライマックスまで残り僅かとなりますが、今年も何卒お付き合いの程……」

「長いよフロンス」

「長いわオジサン」


 きらびやかな着物姿のセイルに続き、リオンまでもが長い挨拶に肩をすくめている。


「しかし、こういうのはかしこまってですね」


 わたわたとするフロンスを追いやって、腕を組んだ鴉紋が口を開き始める。


「今年の干支は何だった?」

「えっと……鴉紋、干支ってなんなの?」

「なんか……今年の動物だ」

「動物……?」

「俺だ俺だ! 今年の干支はきっと俺だぜ兄貴!」


「今年の干支は寅だよ」


 小首を傾げる彼等の問いに答えたのは、いつの間にやらコタツに座り込んでいたミハイルであった。彼は鴉紋の隣に入り込んで、ギチギチになりながらも肩を寄せている。


「うわぁッお前何時からいやがる!」

「なんだいルシル、私とお前の仲じゃないか……いつも一緒に居よう」

「気色わりぃッ寄るんじゃねぇよ!」

「そこは私の席だ、退けミハイル!」


 苛烈な非難もなんのその、何事も無かったかの様に澄まし顔でおせちをつつき始めたミハイル。彼もこのお正月会とやらに参加しに来たらしい。


「まぁまぁ良いじゃないの〜このお正月会は誰でもウェルカムな会なんでしょう?」

「そうだ鴉紋、ミハイル様だってたまには羽根を伸ばしたいんだ、一緒に過ごしてやろう」

「ダルフ……てめぇ誰に指図してやがる!」

「…………ぅゲェっぷ」


 バシャバシャと酒を注いで勝手に飲み始めたミハイルは、論点の中心が自分である事も知らずに呑気にゲップをしている。


「きたねぇな、てめぇミハイル!」

「あ……ごめん、人間の飲む酒ってなんだか不思議な感覚がしてね……っウエップ」

「そうじゃねぇ、キャラ崩壊してんじゃねぇか、もっとおごそかっつうか、そういう雰囲気でやってただろうがお前は…」

「これ旨いよルシル、食べてみろよほら、伊達巻っていうらしい」

「ぁぁあもう! ……おいダルフ、そんなに言うならお前がこのクズ天使の相手をしやがれ、ほら席変われ!」


 鴉紋の立ち上がった拍子にミハイルが床に寝そべると、偉大なる大天使の醜態を珍しがったシクスが彼の背をツンツンとつつき始めた。


「なぁなぁ、ずっと気になってたんだけどよぉミハイル」

「ちょっとまさかあんた、アレを聞く気? やめなさいよ」

「なんだいシクス」

「お前って女なのか?」


 絶句した一同が息を呑むが、ミハイルは何でもなさそうに淡々と答えた。


「は……?」

「どっちもだよ、どっちも付いてる」

「な、なんじゃそりゃ……」

「どっちもいけるんだよ」


 頭を振るった鴉紋はこの話を長引かせてはいけないと察し、半ば無理くりとダルフに話を振る。


「おいダルフ、聞こえてんだろう、席を変われ!」

「いいねぇ、私はダルフくんも気に入っているよ」

「だってよダルフ! さっさと立ちやがれ!」


 鴉紋からの罵声を黙して聞いていたダルフは、口元へと運び終わったおちょこをテーブルに置き、ビキリと握り潰した。


「いいわよダルフ……殺しなさい……ほら、ここにフォークがあるわ」


 耳元に囁いて来る物騒に過ぎるリオンの声。手に握り込まされようとする凶器を払ったダルフであったが、しかしひそかに怒り心頭として、更にミハイルの隣にも行きたくないので、反感の意を込めてキッと鴉紋を睨み上げた。


「断る……」

「なんだとテメェの上司だろうが……」

「……嫌だ……」


 一触即発という空気に緊張するお正月会……

 いよいよと立場の無いミハイルであったが、彼自身はやはり何処吹く風で、またおせちを触り始めている。


「だったら勝負だ鴉紋……」

「あん!? 勝負だぁ?」


 鋭き視線を上げたダルフが、鴉紋を指し示してこう言い放つ――


「お正月行事で俺達と勝負しろ!!」

「あぁっ?!」


 寒風吹き荒れし屋外を眺め、すっかりと落ち着き払ってしまったフロンスはテレビを点ける。

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