第468話 赤目の情念
取り囲まれた底の知れぬ敵意を周囲に、ダルフは痛む頭を抑えながら面を上げる。
「それでも俺は、君達と共に生きるという道を模索している……」
――甘い。余りにも甘くとろけそうな
「なんだとこいつ……」
「今更何をフザケていやがる」
「フザケてなんかいない……俺達はきっと理解し合えるんだ、俺はその可能性を知っている」
すっかりと包囲された殺意の真ん中で、ダルフは理解し合えたロチアート達を想い起こす。
クレイス、そしてグラディエーター達、ラァム……そしてリオン。
ダルフはその旅の道すがら、数多のロチアート達と魂を共鳴させる事が出来た。
「俺達はみんな人間だ、必ず分かり合える。君達が今そうしている様に、魔物だって俺達人間との共生の道がある」
フランベルジュを手に立ち上がったダルフ……だがその実、彼の心中にはやはり迷いが生じる。
「切りたくは無い……出来る事ならば君達を」
そこまで語ったダルフだったが、周囲に満ちた禍々しいまでの殺意の充満を肌に感じる。
「だが、ここは譲れない、どうしたって! 人生とは選択の連続だと俺は知った、力無き者の声が誰にも聞き届けられないという無情も……復讐という情念に取り憑かれ、狂気に呑まれた君達が牙を剥き続ける限り、俺は人々を守る為に降りかかる火の粉を払わねばならない」
構えられていく無数の刃物の物音を聞きながら、ダルフは
「ここでその燃え盛る激情さえ飲み下せば、今からでも俺達との共生が叶うと……そうは思わないのか?」
踏み込まれた千の足音と同時に、感情も知れぬ牝鹿の言葉がダルフの耳に飛び込んだ。
「アリ得ナイ」
一斉に飛び掛かって来た魔物の爪を、ダルフのフランベルジュが一閃する――!
「どちらかが剣を下げなければ、恨みが恨みを呼び続ける! この戦いの連鎖を抜け出す事は出来ない!」
「いいや終わる! お前達人間の滅亡が、もう目前に迫っているじゃ無いか!」
雪崩となって走り出して来たロチアートの猛威がダルフに迫る――
「俺達がどれだけの時代、どれ程の責め苦に喘いでいたと思ってるんだ!」
「その首元まで刃ににじり寄られたからと、今更俺達に剣を納めろなどと言うのは手前勝手にも程があるだろう!」
「やはり人間は勝手だ、お前達こそが争いの元凶であるのだ!」
刃物を照らす鈍い光がダルフへと迫り来る。
「なんで俺達は……なんでっ!!」
ダルフの背より噴出する六枚の雷火が彼等を薙ぎ払う。しかしそれでも仲間の
「『
「グァッ……ア!」
「炎と雷が同時に……!」
振り払う様に一閃されたフランベルジュより、燃え盛る雷電がロチアート達を一蹴する。
切り裂かれた皮膚を『不死』の特性によって再生していったダルフが、空へと舞い上がるが……
「ぁあッ!!」
宙より特攻して来た魔物の突進で墜落させられる。
「今だ!!」
「切り殺せ!!」
「ガ――――!!」
赤目の集団の中で膝を着いたダルフが数多の刃で貫かれる。その幾つかが心臓へと到り、彼を絶命たらしめるが……
「ゥ……ッウオオオオ!!」
自らの中に流れる
「はぁぁアッ!!」
剛力で振り払われた巨大剣が、強烈な風圧を残して周囲の赤目を切り払う――
「殺せ、コロセ恐れるな!!」
「人間を圧殺しろ、俺達の世界の為に!!」
「ク……っ」
その命を燃やし、怯む事無くダルフへと走り込んで来る赤き眼光。
息をつく余裕さえ与えられない命を賭した特攻を前に、ダルフはフランベルジュの切っ先を地に押し当てながら一周した――
「『
大地に残された剣先によるサークルより、“神聖”へと達した雷炎が灯って逆巻く。とっさに展開した防御の陣にて急場を凌いだと思ったダルフだったが……
「な……お前達は、何処まで人を憎んで……っ」
「人間ヲ……ギギ、ぎぃニンゲンをッ!!」
燃え盛り、焼き焦げるその身にも構わずに、ロチアート達はサークルへと立ち入りながら剣を振り上げて来た。
「コイツを殺せば、コイツさえ沈めれば俺達の未来ハ!」
「未来の
彼等の宿した度を超えた滾りを知ったダルフは、自らの理解がまるで足りていなかった事を悟って絶句する。
そうして明滅したまま迫って来る鋭利の全てを、ダルフはいなす事が叶わない。
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