第434話 明暗の騎士団


「ふぅ〜……」


 ハルバードを肩に担ぎながら、清々しそうに額の汗を拭ったゲクラン。

 大地に残るは、湖の様に広がった600もの生命の血溜まりと死骸……寒風が寂しげに荒び、もうそこには何の声や物音すらも上がらない。


「終わったようだな」


 並の感性を持ってさえいれば思わず目を覆いたくなる様な凄惨。しかしエドワードは自軍の壊滅に何の責任も負い目すらも感じていなさそうに、淡々と物事の結末を一言漏らしたのみであった。


「見ての通り、場は整えてやった」


 反射する赤き湖に浮かぶ様にして立った光の豪傑……

 荒ぶり始めた赤目の黒馬の上で、エドワードは冷ややかなる眼光で“豚”を見下す……

 ようやくと二人きりになった彼等――黒馬の低きいななきの後、語り出したのはゲクランであった。


「小賢しい陣形などはいい……あの時の様に、肉と肉をぶつけ合う力任せの白兵戦を」

「私はそれを望まぬが……成程、これはの再現という訳か」


 エドワードはかつてナヘラの戦いにてゲクランの戦略に上をいかれ、常勝無敗のダプリン戦術を崩壊させられた後、組んず解れつの白兵戦に持ち込まれた苦い過去を思い――笑った。


「良いだろう。そこまで貴様に御膳立てされれば、この私も悪い気はしない……私の望まぬ戦況とやらにも、まぁ付き合ってやろうかという気にはなる」

「フッハハハ! 気位の高い奴め、どちらにせよ互いのがここまで切迫すれば、もう陣形を整えている暇も無いだろう。貴様に選択権など無いのだ、あの時のようにな」

「何度でも繰り返し、何度でも貴様を闇の底に沈めてやろう……“豚”よ」

「あへ、あっへへへ!」


 ――二人静かに得物の切っ先を向け合う。するとゲクランの前方には“光のモヤ”が、エドワードの前方には“暗黒のモヤ”が現れ始めた。


白日の騎士団ファントム・ナイツ

暗黒騎士団ブラック・ナイツ


 は次第に増殖を続け、やがて視界を埋め尽くすだけのがそこに並び立った……


「そいつらはのか、エドワード」

「無論だ……私が最も信頼を寄せ、破竹の勢いでフランスを席巻した――あの全盛の頃の騎士団が揃っている」


 1000と並んだを見やり、舌を出してニヘラと笑い始めるゲクラン。


「あへ、あへへへへぇあ……そうか、そりゃあ良かった、何せ俺の方の騎士団も……」


 即座にギラリと瞬く獣の眼光にスゲ変わったゲクランが、声音に物凄い覇気を纏って宿敵へと告げた。


、一人捕虜とされた私の面前で、貴様達に殺し尽くされた最強の騎士団の心が集っている」


 豪傑の前に並ぶ1000のにじっくりと視線を沿わせたエドワードが、担ぎ上げていた漆黒の大鎌をぬらりと抜き出して兜を伏せていく。


「我等の闘争に……」

「白黒つける時だろう」


 そこにひしめき合うは――ゲクランの率いる光の騎士と、エドワードの導く闇の騎士。

 広場を埋め尽くしたが、互いの波動を空に絡ませるまま……


「その白日に、罪ごと焼かれるを貴様に」

「夜の海に呑まれ、藻屑となるだけのを貴様に」


 怨霊の様な白霊と高尚な様な暗黒が、今それぞれの因縁を前に……


「フハッハハハハ、焼き払えッッ!!」

「沈めろ、汚泥の底の様な闇へ……!」


 ――正面より、その剣とプライドを激突させる。

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