第398話 友を愚弄され
「……してシャルルよ、さっさと虫ケラを」
「あ〜、潰してしまわねば〜」
すっかりと腰を曲げて杖へと寄り掛かったシャルルが、狂気を宿らせた瞳でクレイス達を見下ろしていった。
「舞え〜『
杖を差し向けられたクレイス達に、輝きを帯びたガラスの風が吹き込んだ。それはポックの展開する風のベールを徐々に徐々にと突き抜けて、グラディエーター達の体を切り刻み始めた。
「ポック!」
「ぐ……ぅ、やってるッスよぉ全力でっ! 奴の魔力が化物じみてるんスよ!」
緑色の風の守りを強くしていったポックであったが、やはり結果は変わらない。侵入してくる気流が無風であった彼等のドームに流れ込み、やがては崩壊してしまった――
「あぁっ……やっぱ駄目っす!」
「『
クレイスの掛け声で再び盾のドームを固めたグラディエーター。肉の密集した円形の守りの陣の中で、クレイスとポックは切り刻まれていく兵を見守る事しか出来ない。
「もう少しだクリッソン〜刺客を全て
「おーおー嬉しいぞシャルル……ぐっふふ、我等の願望の為、敵を皆殺しにするのだ」
目を剥いたシャルル。増々と強くなっていく銀の風が、盾の隙間からも流れ込み始めた。
「うわっ……く、どうするっすかクレイス! このままじゃ」
「おい、シャルルとかいう何処ぞの大王よ!!」
突如大きな声を上げたクレイス。彼は何やら勢い付いた老王に向けて声を投じている様子である。
「クレイス、何してるっす?」
「聞こえているだろう哀れな大王よ! 貴様を見ていると、腹の底がムズムズとこそばゆくて堪らんわ!」
体の表面をガラスで撫で付けられる状況にも関わらず、何やら鼻の穴を広げて肩を怒らせたクレイス。彼の大き過ぎる声量に、グラディエーター達は顔をしかめている。
「はぁ〜〜?」
「よせよせ、どうせくだらん事よ、聞く耳を持つなシャルル」
ポカンと口を開いたシャルルは、クリッソンの制止も聞かずに盾の密集した地点へと視線をやった。
「ワァーハハハッ! 貴様は狂気に陥り過ぎてまともな判断能力さえをも失っている様だな!」
「何が〜言いたい〜」
「先程からお前の隣でベラベラと喋り倒している、その男に
「はぁ〜……?」
「考えても見るがいい! そいつは一人安全圏よりこの闘争を眺めているだけだ! あろう事か何よりも守るべきである筈の王に、危険な役目を全て押し付けて!」
「ん……」
「そうして自分は傍観を決め込み、あぁでも無いと口を出しているのみ! そこの参謀は本来の立場として、我が身を矢面に晒してでも主君を守る筈だろう!」
「は……」
「分からんかっ! お前はその男の
「…………!」
クレイスがそこまで語ると、銀の風は突如として収まって、シャルルの表情がストンと落ちていた。そうして項垂れていった老王であったが、今の表情は誰にも窺い知る事が出来ぬ程に、長き前髪に覆われていた。
「なるほど、効果てきめんすね! これであいつらは仲間割れを……」
トンと静まり返ってしまった戦場で、ポックは鼻を明かされたであろうクリッソンの表情を窺った。
「ぐふ……ぐっふふふ〜愚策も愚策よ……家畜めが」
「え……っ」
不敵に肩を揺らしていたクリッソンを認めると、次の瞬間には激昂するシャルルの咆哮が教会に反響していた――
「おのれ、おの、おの〜〜!! 私の友を愚弄する気か〜〜ッッッ!!!」
「ぐふふ、竜の逆鱗に触れたな……」
顔を見合わせたクレイスとポックは苦い顔つきとなりながら、強烈に逆巻き始めた銀の気流を肌に感じる。
「私のッ私の友を〜ッ!! あろう事か生涯の恩人に〜ッ私の全てに〜ッ! ぁぁ〜!! ぅぅぁうあ〜!! お前達に私達の何が分かる〜〜!!!」
「失敗したなポック」
「あー、大失敗っすよ」
「ハァァア〜〜ッッ!! 私の友を、クリッソンを愚弄するという事は〜! 私の人生全てを侮辱する事と知れ〜〜ッ!!」
シャルルの血走った眼がギョロリとクレイス達へと向けられると同時に、グラディエーター達の構える半円形の盾へと、凄まじいまでの勢いで幾発もの銀の槍が降り注ぎ始めた。
「『
「グゥァ……が!」
「耐え切れんぞクレイス!」
衝撃の連打にベコベコと凹んでいくグラディエーターの盾。タフネスが売りである屈強な戦士たちでさえもが、繰り返される連撃に体を軋ませ始めている――
「なんとか耐えろお前ら! グラディエーターの気骨を思い出せ!」
「とは言ってもよぉ……ゥグ!!」
「怒り狂ったシャルルは手に負えないっす! 何か手を打たないとこのまま押し潰されるっすよ!」
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