第399話 主を侮辱され
「おのれ、妄信者め……」
仲間達の作る強固な盾のドームが、頭上より降り注いで来るガラスの槍によってべコリと凹んでいくのを見やり、クレイスはグラディエーターに号令を出す。
「こちらも槍を!」
「「応!!」」
呼応した戦士は盾の隙間より闇によって形成された長槍を突き出し、狂乱した様相で金の杖を振るう老王に狙いを済ませる――
「放てぇッ!!」
――シャルルへと向けて一斉に投げ込まれた暗黒の槍。それ等は真っ直ぐに標的を捉えながら『
「砕けてしまえ人間ッ!!」
「ぁう〜〜!!?」
腰を折った老王へと迫るガラス細工の槍の群れ……その脅威を間近にしたシャルルは巨大な目をカッと見開きながら、厳格なる風格を纏って甲高い奇声を発した。
「フゥぁぁあーーイッ!!」
「な…………!」
「あの連投を一撃っスか?!」
キラキラと舞う美しきグラス……等身程もある金色の杖が横一閃と振り放たれて、グラディエーター達の反撃を無力と変えてしまっていた。
「ヒィエエエエィイ――ッ!!」
「来るッスよクレイ……て、え!?」
「馬鹿な、飛び上がっただと!」
これまで一貫として繊細な身を守る様に立ち振る舞っていたシャルル。しかし彼は“親愛王”としての人格を取り戻すと同時に、その過度な慎重さをも捨て去って高く跳躍していたのである。
「先程までとは変わり、なんと大胆な……!」
「あのガラスの体じゃあ、着地なんて出来っこ無いっすよ! ……え、出来ないっすよね?!」
奇声と共に、跳躍による最高高度へと達したシャルル。舞い上がった毛髪にその厳格なる顔付きを惜しげも無く披露しながら、
「お前達こそ思い返すがいいッ! 貴様等が主、
「……あ……?」
何よりも敬愛する主の名を引き合いに出され、クレイスは片方の眉を上げてシャルルを見上げる――
「違う、それは
「……貴様ぁ、言うに事欠いてぇ、よもやぁ……!」
モゴモゴと口ごもりながらその顔を限界まで力ませ、肉の塊をミシミシと軋ませ始めた岩の様な男へと、ガラスの結晶体が振り放たれた――!
「良いか、終夜鴉紋とは下劣な男よ! 貴様等の為などと
グラディエーター達の作る円形の防御の陣。それをも一撃の元に破壊するであろう凝縮されたクリスタルの大槍が、周囲の風を押し退け怒涛と迫り来る!
「ヤバいヤバいヤバいっすよ!! さっきまでとは比べようも無い位に魔力を圧縮してるッス!」
「きさ……まは……我等が…………」
「ク、クレイス! 何ボソボソ言ってるっすか! マジでヤバいの分かるっすよね? こっちに集中して欲しいっす!!」
「……心臓を捧げた……御方にィィ……偉大なるあのぉ……」
「いやぁぁあ! 死ぬっす! 死ぬッスよこれは! おいクレイス! 何時まで下向いてるっすか!? ねぇ、ヤバいすて! おい! おいこのインテリ筋肉ダルマ!!」
いよいよポックにまで罵倒され始めたクレイスであったが、彼の耳にはそんな事など聞こえておらず、ただひたすらに繰り返されていたのは――
「キィィイイイサマァァァアアア゛――ッッツ!!!!」
「うわぁぁぁあ!! 何なんすか突然!!」
「我等が王ッッ!! アモンサマヲォオオオオオ!! アモンサマを侮辱するガァァァァッ!!? このぉッッ俺のぉおお!! 目の前でぇええええええ!!!!」
「ギャァァァあ鼓膜が破れるぅぅッッ!」
――信仰する絶対的存在を
憤激したクレイスが勢い良く顔を上げると、頭上に迫る巨大な結晶に掌を向けて叫んだ。
「『反骨の盾』ェエエエエエア――ッッ!!!」
上空に現れた巨大な盾が、大地壊滅させるかの如き衝撃を完全に殺し切った――!!
「ゥゥオオオオオオッ鴉紋様を侮辱したその愚行ッッ!! 覚悟しさらせ人間ガァあ――ッ!!」
「……! ほざけ犬め――『銀幕』!」
――渾身の魔力を込めて解き放った筈の術をいなされ、多少動揺した様子を見せたシャルル。だが彼は砕けた銀の舞い飛ぶ景観にて、続く2の手を執行する。
所狭しと舞ったガラス片が、一斉にグラディエーター達へと降り注ぐ――!
「ァァァァァオオオオオッッッちょごさぁぁぁああぁああはあッッ!!!」
「ぬ……、家畜め!」
「ちょっとちょっとクレイス! 無茶苦茶やり過ぎて騎士も仲間も吹っ飛ばしてるっすよぉお!!」
我を失ったかの様に怒り狂ったクレイスは、歯を食い縛りながら、“思いの強さ”に呼応して最高硬度まで達した『反骨の盾』を、ハンマー投げかの様にグルングルンと振り回して教会内部に旋風を巻き起こしていた。
「ぐぁぉあ! よせ家畜、その回転を止め――ぎゃああ!!」
「クレイスさん、もうガラスは振り払って……うわぁぁあ!!」
スッカリと銀景色を吹き飛ばしてしまったクレイスは、フゥフゥと荒い息を立てながらようやくと回転を緩める……
「――ッックァァァァ!!!!!」
――かの様に思われたが……!
「『反骨の槍』ィイイイイィィヤアアア!!!」
「なんだ貴様のそのスタミナは……っ」
そのまま握り込まれていった血の朱槍。それは回転の遠心力を加えたままに更にと巨大となり、激憤の相の男によって投げ放たれていた――!!
「くたばれぇえエイニンゲンッッ!! ぃ忌々しいぃイイイイ!!!」
「ハ――っ!」
未だ宙を降りていく最中のシャルル。避け難い巨大な血の砲丸が、ガラス細工の大王へと切っ先を突き立てた――!
「やったッスよ! これで奴の脆い体は粉々に――!」
勝利を確信してポックが拳を振り上げる。しかし厳粛なる大王の気迫は、未だその目から消え去ってなどいなかった――
「――ッ舐めるなぁ愚民めェッッ!!」
――シャルルはその猛威との接触を余儀無くされた瞬間的に、身を衝撃に添える様に回転させながら、過ぎ去っていく槍を
「ぐぬぅぅう……とっとと砕かれれば良いものを!!」
過ぎ去っていく槍の刀身に身を添わせた事で、過激に回転させられたシャルルが多少
「フンハッ!」
固い地面に押しやられ、そのまま砕け散るかと思われた老王であったが、彼は猫の様にしなやかに地へと降り立ちながら物音の一つさえも立てなかった。
「大王に楯突く下民めが……」
――結果としてシャルルの体は、着地の衝撃では僅かにも影響を受けていなかった。
「ぐ……ぁ……!」
――しかし彼の腹部には、先の回転の際に殺しきれなかった微かな衝撃による亀裂が走っていた。
目を疑いながら腹に手をやったシャルルは、家畜に付けられた屈辱の傷に鼻筋にシワを寄せながら、腕を振り上げ
「貴様の如き分際で……よくもこの私の身に触れてくれたな」
「ギャァァァァァオオオアッッ!! アモン様アモンサマアモンサマァァァッッ!!! いまァ゛ッニンゲン共ヲ踏み潰してヤリマすからぁぁあッッ!!」
会話にならぬ程に狂乱したクレイスにシャルルが舌打ちをした……すると『
「手が付けられないのは……こっちも同じっすよぉ、人間」
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