第393話 その“嘘”は嘘ではない


 シャルルへの対応の手立てが無く、ひたすらに命が銀へと変わっていく。増々と大きくなっていくシャルルの“球”に、皆がこの教会からの脱出を頭に過ぎらせた……。


「ふぅーむ……」


 嫌らしい笑みを携えながらミハイル像の前に座るクリッソン。半透明となった老将に向き合いながら、ひたすら打開策を思考するフロンスへと皆が振り返る。


「この教会から早く脱出しなければ、我等はただ死を待つのみ!」

「おいロチアート! さっさとクリッソンの術を打開する策を考えろ!」

「……」


 考え込んだフロンスに対して横柄な口を利き始めた騎士達。しかし当人は眉根も動かさずに顎に手をやっている。


「ああ言っておるぞ、何か思い付いたか家畜? ぐふふ、どうだ? 私の能力は何だと思う?」

「まだピースが足りません、まだ何か……」

「そうか、ならばヒントをやろう……本当の私は既にここには存在せず、教会の外から自らの姿を投影しているだけだ」

「あぁそれは嘘ですね。私達はこうして小声で囁きあいながら視線を合わせています。屋外からではこの声はくぐもり、ましてや視線を合わす事など難しい……ここに居ないとしても、貴方はこの教会の何処かからこの光景を窺っているのでしょう」

「ぐっふ〜なかなか頭の回る……やはり相手取るならば多少は知恵の回る方が良い」


 顎を上げたフロンスがハッと口を開いた。


「“嘘”……何故息をするように“嘘”を並べ立てる?」

「ぐふ〜?」

「まさか、貴方の能力は……」


 何かに辿り着いた様子の肉の異形を見上げ、不敵に片眼鏡モノクルを輝かせたクリッソン。彼は片方の目を弓形にしながら、黄ばんだ歯を見せて笑った。


「お前達は私の嘘を甘く見ているな……」

「いや、まさかそんな能力など……」

だ。私のは“嘘ではない”」


 視線を竦ませ驚愕としたフロンス……ピクついた口元が動き出し、その眉根を上げる――


「貴方の能力は、“嘘を現実にする”能力……」

「御名答だ、食肉よ……ぐふふ」


 遂にクリッソンの能力に検討をつけたフロンス。しかし明らかになった情報は、ただ自ら達をさらなる窮地へと陥れる結果としかならなかった。


「信じられるか、クリッソンの能力がそんな……そんなの反則だ!」

「何でもありじゃないか、そんな能力にどう対抗しろって言うんだよ!」

「チクショー、なんでったってこんな事に! そんな能力があるなら、俺達を見限る必要なんて何処にも無かったじゃないか!」


 彼等の会話を聞いていた騎士達は、もう膝を着いて嘆く事しか出来なかった。


「……」


 しかし多くが命を諦めていく心情の中、その場には一人、未だその慧眼けいがんに光を灯らせてクリッソンを見据えるフロンスが居た。

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