第387話 慟哭を空へと
“捻れ”の驚異が過ぎ去ったかつて商店街だった荒野に、黒き炎と僅かに残された騎士、積み上がった肉の泥、そして大幅に数を削がれたロチアートと魔物が残された。
「そんな……シクス…………シクス!」
膝を着いたセイルが、仲間の最後を見届けて落涙した。
「一人だけ……っ勝手に……最後まで一人で突っ走って……ひぐ……ぅ、バカ……っ」
辛くも勝利したが、かけがえの無いモノを失ったナイトメア。
――すると悲観に暮れた彼等の頭上に、バリバリと鳴る黒き雷轟が飛び込んて来た。
「セイル――ッ! は……シクス、……おい、おいセイル! シクスはっ!?」
「鴉紋……っ」
傷付き果てた体を気にも止めずに、セイルの前に着地した鴉紋。そしてすぐに目を見開いた彼は、誰が語り出すでも無い前に、大切な仲間の気配が無い事に気が付いた……
「シクスは……おい、ウソだろセイル……っなぁ!?」
肩を掴んで揺り動かされたセイルが、涙を落としながら鴉紋の胸に顔を埋めた――
「シクスは死んだよ……鴉紋」
「死ん……だ……? シク……ス……が?」
セイルを胸に、背の雷火と共に瞳の色を消した鴉紋……呆然とする彼はまるで、自らの四肢を切り離されたかの様に痛々しく見えた。
「死んだ…………?」
「うん……ぅ……敵を道連れに……して勇敢に……っ」
「死んだ」
「そうだよ……アイツ最後に言ってた……」
「……っ」
鴉紋の胸より身を離したセイルが、逆巻く紅蓮の瞳を滾らせながら鴉紋を真っ直ぐに見上げた――
「
「…………!」
「鴉紋の夢! 私達が、子ども達が笑って過ごせる世界を……かならず……必ず叶えろって……っワタシに!」
「……シクス……が……」
ハッとした鴉紋は、もう一度周囲を見渡しながら、先程まであったシクスの気を捜した。
「シクス……っ……――シクス!!」
かつて名も持って無かった男に名付けた名を、鴉紋は必死になって叫び続けた。
「シクス!! ――シクスっ……シクスッ!!」
やがてはその声も枯れて、肩で息をし始めた鴉紋。
「シク…………シクス…………っ」
その背中を、仲間達は見つめ続けた――
「――――っ……」
鴉紋の落とした視線……砂地と化した何も無い足元に、彼はシクスとの思い出を蘇らせていく――
「ぁ…………」
ならず者として出会い、鴉紋に牙を剥いた男を
「…………ぁっ……!」
懐いた鴉紋に満面の笑みでついて回り、何やらどうでも良い事をべちゃくちゃと喋り明かす男を
「ぁぁ…………っ!!」
軽口を叩きながらも、ロチアートの為に泣き、その身を粉にして敵陣へと飛び込んでいく真っ直ぐな男を
「ぁぁあっ……!!」
清々しいまでに
『兄貴……必ず叶えろよ、俺達の夢を』
「シクス――――っ」
幻想の声を聞いた鴉紋は
強く、強く……その声が掠れて声にもならない程に――
「ぁあ……ぁぁあ、あっ……ああ、ぅう、ああぁぁっ……あああ、ゥアアアァアアアア――っ!!」
仲間を想い、空に声を上げ続け、大粒の涙を流し続けた――
「アァァああああぁぁ、ぁあっ、ゥアアッ!! ァァァアアアあああぁあああああぁ、あああぁぁあ!! うああァァァァアァア――!!」
――鴉紋は泣いた。何時までも泣き続けた。鼻からも水滴が垂れ、その顔は無様で、見るに堪えない位に苦痛に歪んでいた。
「あああああ、うアァァあああぁぁアァァあああぁぁアァァあああぁぁアアアァアアアゥアぁぁあああぁぁああああああぁああァっ!! ウあぁぁああああ……――」
揺れ動く情動は抑えられずに、鴉紋は
そこには“王”としての威厳は一つも無い……弱々しいだけの男の姿だけがある。
「鴉紋……!」
「鴉紋様……っ」
「ぅうっ……鴉紋、さま……」
だがそんな王を笑い、疑う者は、一人だっていやしなかった……
仲間の為に惜しみの無い涙を垂らす……そんな優しき男にだからこそ、皆は彼に忠誠を尽くすのかも知れない。
「うわぁぁぁああ! ぁぁあああゥアァァああああぁぁッアァァああああぁぁあぁぁああああアァァああああぁぁ!! ぅぅっ、……ぐ……ぁあっ、あぁぁああああアァァああああぁぁアァァああああぁぁ!!」
鴉紋が人間を辞めたなどと誰が言った――
彼はこんなにも……誰よりも
泣いているでは無いか。
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