第378話 愛《LOVE》
「わタしはジャンヌを取り戻ス……れろ、愛し、愛されアッタ奇跡のしょうジョ……ヒょ」
首をグルリと一周捻ったジル・ド・レが、足元をフラフラとさせながら体躯を捻っていく。その指先や眼球までもがぐるぐると捻れ、僅かに保った意識が魔力を暴走させていく。
「疑ウまでも……無い、淑女ハ私をアいしていた。うん、あレは……
何やらぶつくさと呟き始めた男に向けて、先ずはセイルが空へと舞い上がっていく炎の大弓を構えた。
「『
横向きに構えられ、引き絞られた大弓の弦。セイルの手に握られた漆黒の矢じりが無数に分裂し、天より注ぐ灼熱の豪雨となる。
「ギーの事ハ好キでは無かった……うん。奴と話すトキの乙女はカオが引きつっテいた。シカシ、かく言うワタシとハナス時はどウだ……その表情は満面に綻ンで
「いつまで言ってんのよこの変態、さっさと燃え溶けてしまえ!」
頭上より迫る脅威よりも、何やら記憶の中で他の事に執心していた様子のジル・ド・レ。噛み付くように吠えたセイルの炎が彼へと降り注いだ。
「――っこれでもダメっ!?」
ジル・ド・レは自らを含む周囲を渦の様に捻ったまま、炎の雨の中を
「こレからわたシ達は
だが攻防一体とした渦巻きのベールに守られたジル・ド・レに影響は及ばず、踏み込んだ先の炎の海は空へと捻り上がって消えていく。
「シカシ――ッキサマたちガそれをウバッタッ!!」
「ゥ――ッ!!?」
何処かボンヤリと空を仰いでいたジル・ド・レの視線が、突如として激昂する様にセイルを捉えた。
――そして振り放たれるは、とぐろとなったショーテルの斬撃。
「キモいのよ、思い上がりのストーカー野郎!」
「ストーカー……? あヒッヒ、ソレではワタシが一方的に好意ヲ寄セテいた様では無イか、どチラかといえば、
歪んだ刀身より放たれる斬撃は、もはや宙に輪を描くかの様な軌道を残してセイルへと迫る。
――しかし避けられぬ程の範囲と速度では無い。炎の翼を噴き上げて空を旋回したセイルが、斬撃を後にしてジル・ド・レへと迫る。
「可哀想な人ね……アハっ」
「カワイソウ? 私ヲ疑ってィるのか……アヒ、なれば教えテやろう……“目”だ、あのメ……アノ目がワタしニ好きだと言ってイタ、痛い程にその身を捩られていた。あれヲ見れば明白、ジャンヌがわたしに好意を寄セているのはキット周知の事実デアッタに違いない」
空を駆けるセイルの背後、過ぎ去った筈の斬撃がキラリと輝いた。
「ん――――!?」
「『
強烈なるうねりが大気を満たし、ジル・ド・レの斬撃を加速、変形させながら銀の軌道を飛び交わし始めた。
「太刀筋が全く見えな――ッアァ!!」
「ヤベェッ嬢ちゃん、高度下げろッ!」
見る間に目に負えなくなった斬撃がセイルを切り刻んだ。思わず中空で天を向いたセイルを挟み込む様にして、更には大気の“捻れ”が彼女を呑み込もうと大口を開く――
「『
「嬢ちゃん!!」
すっかりとセイルを包囲していた捻れが、空を歪ませてセイルを巻き込んだ――
「乙女はコノワタシに燃え上がる程の
「てめぇええオカッパぁぁあ!!」
怒号を上げたシクス。しかし彼は次の瞬間に、歪んだ大気より辛うじて脱出して来た少女の姿を目撃した。
「ごめん……シクス」
「――ジャクラ飛べっ!!」
シクスの前方よりジャクラが飛び上がって、墜落して来るセイルを掬い上げた。
「う……っ……!」
ジャクラの掌の中で、痛みに身を捩ったセイルが血を吐いた。身体中を切り刻まれながら、捻れに呑まれた炎の翼がグチャグチャに砕けている。翼は魔力によって組み上げられた物質であるから整形は可能であるが、直ぐには飛び上がれないであろう。
ただの一瞬、僅かに触れただけでこんな有り様なのだ。シクスは同時に、あの“捻れ”に肉体が巻き込まれた事を思うとゾッとせざるを得なかった。
「アイツ強いよ……シクス……えほっ!」
「分かってるよ……分かってるが」
地に着地したジャクラが、やや離れた場所にセイルを寝かせてシクスの前に舞い戻った。
無数のロチアートと魔物達に守護され始めたセイルに向かって、シクスの赤目が振り返る。
「やるっきゃねぇだろ?」
「……うん」
舌を突き出しダガーを手元で遊ばせたシクスに、セイルは微笑みながら頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます