第362話 灼熱の根性
両者決着の間合いとなり、再びに空に神聖と邪悪が打ち上がる――
荒れ狂う大気を受けながら、何処か愉しそうに眉を歪めた鴉紋が口を開いた。
「その体……傷が癒えている訳じゃあねぇんだろう?」
「ソレがどぅぅおしたぁぁあッ!! 丁度良いハンデじゃねぇかぁぁ……ッ神が卑しい暗黒に相対するニハッ、ちょぅおおおっっど!!」
無理に宿主の機能を修復しているだけの
「いてぇだろう……」
「痛みなどがドウしたっ! そんなくだらねぇモノは悲願の前では二の次だッ!!」
「クク……だよな、分かるぜ」
他愛も無い会話を交わした二人は、同時にスゥと息を吸い――
――――その眼光を限界まで噴き上げた!!
「チツジョの為ニィィイイイイイッ!」
「こんのッボケナスがぁぁああッ!!」
それから彼等は、血生臭く、そして泥臭くもつれ合い、殴り合い、切りつけ合った……
執念ぶつかり合う血みどろの争いに、見守る騎士やロチアートは各々に嗚咽を漏らし、嘔吐をしたりしながら、肉のぶつかり合いを静観していた。
「ギィアアアァアアッッ!!!」
ヘルヴィムの肩が穿たれ肉を欠損する。血が飛び散り骨が飛び出すも、再びに聖骸布が傷に巻き付いていく。
「ぅぉアッがぁぉああっ!!」
鴉紋の腿に槍が突き立てられて肉を捻られる。赤い鮮血と共に悲鳴が上がるが、痛め付けられたその足で聖槍を蹴り払った。
「ヘルヴィムッッ!!」
「ヘビィィッッ!!!」
噛み殺す様な激情が迫り合い、互いの額がぶつかって鈍い音が鳴り響いた。度を越えて繰り返される争いに、見守る者からはカチカチと顎の鳴る音が聞こえて来る。
「…………フンガァッ!」
「…………ゥウッ!!」
互いに一歩よろめきながらもすぐに視線を戻したヘルヴィムと鴉紋。赤き液体に塗れた二人の相貌に、
「ハレェエエエルヤァァアッ!!」
「く…………!」
一呼吸着いた鴉紋に対し――ヘルヴィムは息継ぎもせぬままに、激しい閃光を纏い上げながら攻撃の一手に出る。
「チィエエエエエエエィィ!!!」
「ぁっ…………ぐ!」
強烈なる鈍痛と、刺し込む様な鋭利な痛みが鴉紋の頭を割って血を飛散させていた――
訳も分からず、震えた視線で鴉紋が見定めたのは――ヘルヴィムの右手で何重にもとぐろを巻いて押し固まったイバラと、そこより無数に突き出している輝く
「随分物騒な成りしてんじゃネェかっ……そいつも神の意志だとでも言うつもりか?」
嘲笑気味の鴉紋が口角を上げていくのを長め、ヘルヴィムは
「ソゥゥゥウウウオオオオダァァァアアアアァアアアアアアアア――ッ!!」
体内から光を放散していくヘルヴィム――
聖遺物を練り固めて出来た棍棒が、鴉紋の顔面へと真っ直ぐ迫る――
「嘘付け……テメェの意志だろうガァア!!」
「――ニィィあッッ?!!」
鴉紋の飛び膝がイバラを捉える。そして激しい光の明滅の後に起こったのは――聖遺物の破裂であった。
「その首貰うぞヘルヴィム!」
ヘルヴィムの頭上程に浮かび上がりながら、鴉紋は飛散するイバラの群れの中で神罰代行人へと拳を構えていく――
「まぁまぁ楽しかったぜ……神罰代行人!」
――異変が起こったのは、鴉紋が勝ち誇った笑みを見せたその時であった。
「タノシイィィ……だとぉ?」
「は――――っ!!」
細く鋭い紫色の眼光が頭上の鴉紋を捉えていく。
――すると中空に飛散していたイバラの群れが、超速で再生を始めて鴉紋を絡め取った。
「タノシイのはぁ……これからだぁ……」
「この俺を罠に……ッだが、こんなモノぉ!」
鴉紋は全身に巻き付いたイバラを、雷撃の纏う掌で一挙に引き剥がしていった。
「く――――」
だがその眼下では既に、光瞬く
「主よぉッ! 今ここに、永き大願の成就の時ィィ!!」
「…………!」
「ンンッッ――『
閃光なる神聖の一突きが、鴉紋の顔面を捉えて突き出した――!
「コ……ノ!! ぐぉおおおおおおッ!!」
「キィええええっシブトイッ!! シブトイシブトイシブトイッッ!!」
――なんと鴉紋は、
「――ンッ……グ……ぉおおおっ!!」
「とっとと串刺しになりやがらねぇカァアッ!!」
鴉紋は喉元を傷付けられ血を吹き出すも、僅かに槍の勢いを殺した所で、その手に刀身を握り込んだ――
「砕けろクソ槍がぁぁああ!!」
「風穴開けろよ侵入者ァァァッ!!!」
受ける鴉紋に対し、憤激したヘルヴィムの槍が前へと進み始めていた。力む神罰代行人の体から光が溢れ出している。
「ぅおおおおおおッ!!」
「ギエェエエエエエイ!!!」
全開の力比べを制したのは……僅かにヘルヴィムの方である! 奇跡の槍が、巨悪の顔面へジリジリと迫って止まらない!
しかし、目を剥いた鴉紋の眉間まで槍の切っ先が届いたその時――!
「――――ンッ!!!?」
膝を着いたのは、体内より暴発する様な光を放散したヘルヴィムの方であった。
目前まで迫っていた殺意に嫌な汗を拭った鴉紋は、暴走する神聖を眼下に首を振った。
「リミットだろうヘルヴィム……そこが人間の」
――人が神聖の行使を可能とする時間が過ぎ去り、そこには余りに身に余る光が人の身を喰い潰す光景が残る……
一介の人間が、その身に宿した神聖に抗う事など叶わない。
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