第355話 覚醒に次ぐ覚醒、人の成れへと
猛烈なる執念を立ち上らせるヘルヴィムを頭上に、鴉紋は鋭い目付きとなって右の赤き目を照り輝かせ始めた。
「凄んでんじゃねぇぞ……」
そして逆巻く血の波動の風圧を前に、鴉紋の全身から邪悪が爆散し、両腕に纏わせた黒き雷を途方も無く肥大化させて、巨大なる爪のシルエットを映す。
「人間……如きが……」
大地消し飛ばすかの様な
「――このオレニッッ!!!」
――そうして渾身の打突を打ち出す為に右腕を引き絞ると、赤き眼光の滾りに共鳴するかの様に天上に虚空が開き、赤黒い陽光が降り注ぎ始める。
――瞬間。鴉紋は、ヘルヴィムと同じく悪鬼の如き面相となる――!
「『
鴉紋の打ち込んだ拳――稲光による巨大な爪が、ヘルヴィムの連ねた全開の血の波動と接触する――!
「ヘルヴィム神父……!!」
「どうか主よ!」
「神の鉄槌を罪深き悪魔に!!」
凄まじい黒と赤の衝撃がぶつかり合う景色を前に、黒の狂信者のみならず、他の騎士までもが固唾を飲んで拳を握り込んでいく。
――そして大地舞い上がるその場に置いて、一際に清く響いていったのは、
「ヘルヴィム神父、我等の宿願をッ!!」
父親の勝利を信じて疑わないフゥド・ロードシャイン――
「オオオラアアァァアア――!!!」
「づぅぇエエええええエエエエエエアアッ!!!」
本能的な恐怖を呼び覚ます恐ろしい天の下にて、聖血の怒涛砲が鴉紋に差し込んでいる。
「ゼェェアアアアア!!! 滅、滅、メツメツメツメツメツメツメツメツヘビィイイイイア!!!!」
狂気を宿す怨嗟が鴉紋を呑み込み、大地を叩き割るかの様に容赦も無く降り注いだ。
「ヘルヴィム神父が押し勝ったぞ!」
「いや待て、赤い濁流の中に鈍い光が……ッ!」
遂には悪魔を一呑みにした赤き激流の最中に、鴉紋の放つ闇の発光が照り輝き出した。身震いをした騎士達が次に目撃したのは、一筋の
「――――ヌゥうううおのれぇ……おのれおのれおのれぇッッ!!」
「あんまり頭に乗るんじゃねぇよっ!」
万物全て弾き飛ばしてしまいそうな聖血の波動が、前に突き出された黒き稲光の爪で割れて放射状に拡散していた。
「お前の大好きな十字架毎へし折ってやる!!」
――――そして進む!
前へ前へと、激情を刻む悪魔の面が、見る者全てを震え上がらせる邪悪に満ちる!
「どぉぉラァ――――ッ!!!」
「――――ギ!」
振り抜かれた鴉紋の爪に、打ち込まれる激流が遥かに弾け飛んでいた――
その光景に強い動揺を刻んだフゥドであったが、ヘルヴィムは即座に血に紛れ、放散した血液より鴉紋の頭上へと踊り出す――!
「――キュゥエエエエエェェエエエエエ!!!!」
空に打ち出す十字架からの血の翼。何処までも加速したヘルヴィムが一直線に悪魔の頭上へと迫る。
――虚を突いたと思われたヘルヴィムの機転。
しかし――――!
「いちいち叫ぶんじゃねぇよ……」
「ヌ――――ッ!!?」
呆然と前を見据えていた鴉紋の眼光が、右の赤き虹彩が、強く発光したままギョロリと神罰代行人を捉えた――!
「『
「グゥウゥゥあぎぁ――ッ?!!」
黒き爪が紅き聖十字を捉えると、回転する十字の部分を砕き壊していた――
「カ――――ッッッ!!!」
悪魔と肉薄したヘルヴィムが鼻筋に深いシワを刻み付けた。
そして大振りの右腕を振り抜いていた鴉紋は、その勢いのまま回転して左肘をヘルヴィムの頬に叩き込んでいた――
「ギ――ぁ……っが――――!?!!」
全ての要となる聖遺物――代行人の原点となる聖十字を打ち壊されたヘルヴィムが、激しく吹き飛びながら地に転がった。
「ギギ……ぁが……ぐ!!!」
「終わりかヘルヴィム……?」
その決着に唖然とするしか無かった騎士達。そして同時に、彼等は諦めざるを得なかった
――人類の勝利を……
神罰代行人の聖十字架が打ち砕かれ、逆巻いていた聖血が血溜まりとなっていく。頬を砕かれたヘルヴィムは、外れた顎と風穴の空いた頬に悶え苦しんでいた。
「駄目だ……ヘルヴィム神父でも、代行人でさえも……」
「化物だ……化物、最早人類の届く地点にさえ奴は……っ!」
悠然と歩む鴉紋が、失神してしまいそうな視線を彷徨わせたヘルヴィムに歩み寄っていく……
「ぁウ――……っ!! ぬ……っく!」
やがて神罰代行人に宿り輝いていた威光が消え失せて、力無く横たわるだけとなった。
「嘘だ……負ける訳ない、ヘルヴィム神父……」
その様を放心した様子で見下ろしたフゥドは、膝を着いて神へと祈る。その必死極まる形相は、父へとすがる幼き子どもの様であった。
「お願いだ……立ってくれ、ヘルヴィム神父……お願いだ! 主よッ……!」
舌舐めずりをした鴉紋は遂に、地に伏せ白目を剥き掛けているヘルヴィムの頭上に立った。
「潰してやるよ……虫ケラ!」
「……ぅ…………ぁ……」
拳を振り上げる鴉紋。ズタボロになったヘルヴィムの黒きスータンの胸が開き、彼のロケットペンダントがポトリと掌に落ちた。
「ルミ……ナ…………!」
自らで葬った妻の形見が、ジッと彼を見詰めているかの様であった。
「……侵入者は……絶対にぃっ」
「今から死ぬ奴がごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ」
「……赦さな……
「――――!」
「――ッ貴様だけはァァアアアアァァアアアア――ッ!!!」
「ぁ――っ?!」
涙を流した使徒の視線が、その紫色の眼光が――ロケットペンダントを強く握り締め、激しく噴き上がりながら鴉紋を見上げ始めた――!
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