第353話 因縁と覚醒
固き皮膚にも響くヘルヴィムの乱打は、確かに鴉紋にダメージを残している様だ。血の濁流に呑まれたまま身を溶かしていく鴉紋を眼下に、彼は更に抑揚を加える様にして聖十字の風車で血をかき回し、鋭利な形状にして対象を襲わせる。
「倒したぞ、ヘルヴィム神父が終夜鴉紋を!」
「遂にやったんだ、見ろ、奴の黒い体がみるみると溶けていくぞ!」
盛り立つ騎士達とは裏腹に、ヘルヴィムは細く鋭い瞳のまま、うつ伏せの背に血の鋭利を突き立てた鴉紋を見据えていた。
「豪気なお前が寝たフリとはなぁぁ……随分と小者に成り下がってしまった様だぁ……」
「「え……?」」
ヘルヴィムのその声に騎士が驚愕としていると、血に呑まれてピクリとも動き出さなかった鴉紋が、緩々とその右腕を上げていった。
「まだ、死んでない……?」
やがてその黒い掌は聖者達の血の大河より突き出して、曇天の天上に差し向いた――
そして、くぐもった声が一つ……
「『
「「「――――ッ!!!」」」
突如降り落ちた漆黒の豪雷が、巨大な閃光と共に鴉紋に墜落していた!
物凄い轟音と衝撃に騎士が風に流されていき、血の大河が掻き分けられるが、ヘルヴィムは一人腕を組んだ体制のまま、そこに立ち上がる男を待ち受けていた。
「お前の様な人間も居るのだな……」
「……いよいよ本意気という訳かぁぁ」
その黒き両腕にバリバリと鳴る黒の稲光を纏わせた鴉紋が、凄まじい殺気と共にヘルヴィムへと歩み始めた。
「この俺に、真っ向から拳で対立するとは」
口元より垂れた血を舐めるヘルヴィムと、額からの血液を掌で塗り付ける鴉紋。二つの“個”の視線が交わり、バチバチと火花を散らしているかの様だ。
「いよいよだ……我等神罰代行人、紡がれてきた全ての血潮がぁ、貴様のその首へと刺し込まれる……そうぉイマァこの時をぉ……ドレホドォオオオオッ!!!!」
「――――チッ」
燃え上がる様に揺らめいた代行人達の血液。その記憶がヘルヴィムを取り巻きながら、凄まじいエネルギーを凝縮していっているのが震える大気より分かる。
そうして紅き聖十字は確かに握り込まれると、神罰代行人の血液を過激に吸い上げ始めた――
そして今、彼は永く
「『
紅き血の大河は“翼”と変わり、聖十字より“二対の血の翼”が打ち上がって雲を突く。
「ヘルヴィム……13番目の神罰代行人……」
満ち満ちる破邪のエネルギーに目を剥いた鴉紋は、今もって彼の名を繰り返しながら、思わずツバを飲み込んでいた。
紅き聖十字より昇る翼は上空に重なり合い、もう一対は彼の体を護る様に交差されている。懐かしくも忌々しいその“天使の姿”に、ルシルは目を細めながら背の十二枚の暗黒を空へと邪悪に立ち上らせていた。
「蛇ぃぃい……」
「ヘルヴィム、園の番人よ……またもや俺を阻むのか」
逆巻きあう血の翼と、蠢く暗黒の触手。互いの翼が空に絡み合い、押し退け合う!
余りにも激しい天地ひるがえるかの様な衝撃が繰り返される中、一人の男は
紅き血の聖十字と、黒き雷電の黒腕が、目前の存在を討ち滅ぼすべく――そこに滾る!
「ブッ殺すぞクソオヤジが……」
「秩序の為に我等の為に神の為にぃぃ……貴様をここで討ち滅ぼすぅ」
二人の化物は静かに囁きあうと、まるで共鳴するかの様にして、次の瞬間には全力で怨嗟を吐き合った。
「死に晒せ狂信者ァァアアああああッッ!!!」
「出て行け侵入者ァァああぁぁああッッ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます