第335話 主に仕える悪魔
*
王都に掛かる巨大な跳ね橋を無理矢理に下ろした鴉紋は、真正面よりミハイルの鎮座する高き修道院――その最上階にある大聖堂を目指していた。
武装したたった500の兵と魔物達を引き連れ、最早黒色化しても引き摺らざるを得なくなった、傷んだ左足の道筋をズルズルと地に残して。
民草の避難が済み、人の喧騒がすっかりと止んだ城下の町を進み、高き岩山の上にある荘厳なる修道院を目掛ける。
進むに連れて、鴉紋は自らの行き先に凄まじい闘気が溢れ出している事に気が付く。
「昂ぶっていやがるのか……この俺を前にして」
更に鴉紋は予告も無く奇襲を掛けた筈であるのに、この先に統制された集団が待ち受けている事を感じ取っていた。
まるでミハイルの先見の眼で、起こる全てを見透かされていたかの様であるが――
「上等……」
――無論、鴉紋が歩みを止める筈も無かった。
どちらにせよ、彼にはそれしか出来無い上に、敵がどう出ようと取るべく戦略は一つしかない――
――強行突破である。
やがて鴉紋の進む大通り、その道の真ん中にひょっこりと顔を出した岩に、紫煙と共に深く座り込んだ男が見えて来た。
「お前か……!」
眉を吊り上げた鴉紋は、何処か愉しんででもいるかの様に歯を剥きながら、早くもその背に黒き雷の翼を全て打ち出した。
「永く紡がれて来た我等が宿願はぁぁ、練り上げ、積み上げて来たたゆまぬ努力はぁ……この日この時、俺という存在が貴様に、相対する瞬間の為であったぁぁ」
黒きスータンの男はそう言って立ち上がると、吸っていた煙草を拳に握り込み、ケモノの様な眼光を丸い
「13番目……ヘルヴィムか」
「その名を代々相伝して来たのもまたぁ……貴様との因縁を断ち切らぬ為であったぁ」
橙色の捻れた髪は空へとブチ上がり、激しい血の闘気が、早くも紅く滾り始めた胸のロザリオより
「待ってたぜぇぇ……ああ、本当に恋い焦がれていたんだぁぁ」
高く舞い上がろうとするロザリオを掴むと、それは銀の大槌に代わり、更に
車輪の様に分裂した大槌の十字部分が、積年の因縁を吐き出しながら血をかき混ぜる。黒きスータンに絡み、纏わりついた紅の渦が溢れる――!
「神罰代行人の名に掛けてぇぇ……貴様を滅する、完膚無きまでぃ……なぁぁ、ヘェエェエビィィイイイイッッッ!!!」
「ククッ」
人の領域を越えて逆巻く血の因縁……宙に
13番目の神罰代行人――第78代ヘルヴィム・ロードシャインが、
「ヘルヴィム神父!」
「フゥド」
確かな面構えで背後に立ち並んだ黒の狂信者達。その後ろにも、各都より集められた約1000の騎士が控えている。
「貴様等は雑魚を掃討していろぉ……我等が闘争には近寄るなぁ、良いか、お前が指揮を執るのだフゥドよ」
「どうか、貴方に神の御加護があります様に――
聖遺物を編み込んだグローブを紅く発光させたフゥド・ロードシャインは、父の健闘を祈り胸に十字を切る。
すると狂信者達も、敬愛する神父の加護を祈って口を揃えた。
「「「
薄ら笑いを見せたヘルヴィムは、クスクスと顎を揺らしながら、白き牙を何処までも剥き出していった。
「昔はそういうのが嫌いだったぁ、神なんぞが、と毒を吐いた事も……またあったぁ」
低く垂れ込めた曇天に、その身を影に染めた神罰代行人が、黒く染まったシルエットに丸いレンズを光らせる。
その有り様は、最早神に使える聖人というよりも
――
「だが今はぁぁ……神に使えて来て良かったと思うぅ……
――そして突如暴発した聖血と共に、ヘルヴィムは張ち切れん程に咆哮した!
「チィィィイイツジョノタメニィイイイイイ――ッッッッ!!!!」
この男ならあるいは……そう思わせるだけの気迫がそこにはあった。
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