第315話 団結の力
「げぶぉうォ……ぉぉ……!!!」
血眼になって体をくの字に曲げたベリアルが、声も無くもがき苦しんでいる。
『
「やれるわダルフ……その剣があれば悪魔を討てる!」
「かましたれダルフくん!!」
先代のクレイモアと近い質量と握り心地……彼だけの為に打たれた巨大剣を、ダルフは手元で振るう。
「まるで自らの手足であるかの様に馴染む……流石だ」
足元で死に絶えた名工を想い、ダルフは炎と雷撃を同時に纏うフランベルジュをベリアルへと向ける。
「共に行こう……メロニアス」
怒涛の魔力が混じり合い、刀身を輝かせていく。そこに宿る果ての見えない力を認めたベリアルは、鼻息を荒くしたまま体を起こしていった。
「また失敗しちゃった……ルシルにも何度か怒られたんだ……遊ぶなって……怖かったなぁ、あの時のルシル」
ベリアルの発光した赤目が、夜闇を切り払う程に強烈に灯り、背に天を突く程の邪悪を打ち上げ始める。
再びに要塞を割って空を覗かせたエネルギーが、ダルフを前に全開の覚醒を見せる。
「また怒られるのもヤだし……真剣にやるよ」
「く……っ」
悪意の大波に押し寄せられるダルフであったが、彼はもう怯まずに、確かな眼光で邪気を照り返していた。
「まるで生まれ変わっちゃったみたいだね、ダルフくん。もう僕の目も効かないか」
トラウマを切り払ったダルフに邪眼を注ぐのを諦めたベリアルは、口元の血を拭ってから、背に数多の大蛇を呼び寄せて浮き上がっていく。
「『
地を這って濁流の様に押し寄せる大蛇。強烈なる酸が蛇の走った道筋を溶かし尽くして煙を上げていく――
「忌まわしき邪悪を、ここに断ち切る……!!」
空に飛び上がったダルフの頭上に、発光するフランベルジュ。
纏った火炎と稲光を噴き上げながら、その一太刀は――
「『
邪毎に大地を切り払っていた――
飛ぶ斬撃に一閃に首を跳ねられる大蛇の群れ。
「切り離した位では駄目だよ、この蛇に実体は無い、何度だって……っ」
ベリアルの噴出する大気より発生した蛇は、一度断裂した位では霧となってすぐに再生する。
しかし――
「なんだと……」
呟いたベリアルが目にするは、霧散する大気を吸い上げていく、地に蔓延した炎と雷光であった。ただの魔力で大気を放散させている訳では無く、それらの魔力は邪気を呑み込んでいたのであった。
「神遺物を媒介にする事で……魔力のランクを底上げしている? ……すごい、すごいよダルフくん、通りで実態の曖昧な僕の身に、キミの電気と熱が残った筈だ……っ」
自らに干渉する事が可能な武器を持った人類を見下ろし、ベリアルは引きつった笑みを見せる。
「じゃあこれはどうかな……」
周囲に振り撒いた紫色の大気より、無数のレイピアが表れて大地へと指し向いた。
「『
触れれば一度に生命を溶かし尽くす融解の剣が、雨あられとなってダルフへと降り注ぎ始めた――
「ハア――――ッ!!」
ダルフの体より満ち溢れる雷撃、更に頭上で回したフランベルジュより、炎と迅雷が風巻に乗って渦を作った。
「『
「なんだよそれ……」
上空まで追い立てて来た旋風を回避したベリアル。毒のレイピアもたちどころに消え去ってしまっている。
「……いいよ、じゃあキミ達の弱点を狙うね」
再びに中空に表したレイピア。それは周囲に転々と倒れ込んだままのヘルヴィム達を同時に狙い澄ましていた――
「どうするダルフくん……アハハっ」
「リオン、ピーター!!」
ダルフがメロニアスを抱えて空を走ると、ピーターのチェーンがフゥドを絡め取り、リオンの氷塊が荒っぽくヘルヴィムに炸裂して壁まで吹き飛ばした。
酸の雨をやり過ごされ、少年は苦々しく人間達を見下ろしていった。
「全員ボロボロなのに……うっとうしいなぁ」
更に表れたレイピアの雨が、数を増して全員へと降り注ごうとする瞬間――リオンは魔眼を押し開いた。
「『
上空に表れた黒点が、凄まじい引力にレイピアの全てを呑み込んでいた。
「は……ぅ……っ」
魔眼に亀裂を走らせたリオンは、膝を付いてブラックホールを閉じていった。
その隙にヘルヴィムを回収して来たピーターが、ダルフより受け渡されたメロニアスまでもを口に咥えながら、彼女の元へに走り寄っていた。そして上空に漂う悪魔へとモゴモゴと勇む。
「ワタヒたひの団結、舐めんじゃねへわよ!!」
「も〜……分かったよ、ダルフくんの剣さえどうにかすれば終わりだもんね」
「お前の相手は俺だ、ベリアル!!」
肩を落としたベリアルは、こちらに大剣の切っ先を向けて飛翔して来る、ダルフ一人へと標的を絞り始める。
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