第257話 ひたすらに尻を追い掛ける
*
突如現れた堅牢な鉄門の先、開かずの間の向こうでリオン達が目撃したのは、薄く輝いた未知の鉱石であった。
「うわぁ綺麗ねメロニアスくん、前衛的だわ。何なのこのシェルター。見たこともない石……いや、鉄で出来ているのかしら?」
ロマンチックなものでも見ている様に瞳を輝かせたピーターにメロニアスは答える。
「これは俺の練り上げた唯一無二の鉱石で出来ている。
メロニアスは懐から銀の小槌を取り出して掌にパシンと叩き付けて見せた。
「ミハイルより授けられた神遺物――
ケテルの天使の子が特殊な炎によって鉱石を自在に変化させられるというのは事実であったらしい。先程ヘルヴィムをも恐れさせていた小槌からの炎は、やはり特別な性質を有している様だ。
「おい魔女、不用意に壁に触れるな。魔力を吸い上げられるぞ」
「え……?」
発光する壁に触れかけたリオンの手が止まる。そしてふてぶてしい表情でメロニアスに向き直った。
「私はリオンよ。魔女と呼ばないで、嫌いなの」
「何処までも態度の太い奴だ」
「私はピーターよ。マイベイビーと呼んでくれたら嬉しいわ」
「断る」
「なによダーリン」
「せめて呼び方を統一しろ。そしてダーリンは絶対にやめろ」
すっかりとメロニアスに懐いてしまっているピーターに肩を落としたリオンは、かつて自らを苦しめた鉱石と似た性質を持つ物質に疑問を持つ。
「ベルンスポイアとかいう魔力を封じる鉱石と同じなの?」
「良く知っているな。しかし違う。ベルンスポイアはマニエルの創り出した天然物だが、俺のはいわば人工物だ……性質は多岐に渡る為、俺の創り出した鉱石は総称としてシェメシ鉱石と呼ばれている」
リオンはそっと目前の鉱石に触れてみた。即座に魔力を遮断されたベルンスポイアの時とは違い、触れている間にじっとりと吸い上げられていく感覚だ。
「魔力による攻撃は防げそうだけど、ヘルヴィムが扱うのは魔法じゃないんでしょう?」
するとメロニアスは得意そうに腕を組んで微笑んだ。
「強度についても折り紙付きだ。奴にはここを破れん」
ピーターがここぞとばかりにメロニアスに迫る。
「でもでもメロニアスくん。アイツってば凄い力なのよ? あの大鎚を振り下ろされたら……」
「問題無いと言っている。これは奴本人の破壊力を基準にして組み上げたシェルターだ」
周到な準備にリオンは眉根を潜める。
「いつかヘルヴィムに襲われる準備でもしていたっていうの?」
「馬鹿を言うな、単に人類最強である奴のパワーを基準にしただけの事だ。お陰でこのシェルターは何があっても崩れん要塞と化している」
メロニアスは先頭に立つと、シェルターへと続く扉に小槌を叩き付ける。すると炎が上がって扉の錠が下りた。
「こんな所で道草を食っている場合では無いのだ。早く入れ」
しかしリオンはここで警戒を示した。
「ちょっと待ちなさいよ。その小槌で無いと開けられないって事? 私達を幽閉する気?」
「用心深い奴だな、外からはそうだが、内部からは簡単に開けられる様になっているのだ」
ダルフを連れていそいそと中へと入ってしまったメロニアス。彼の尻をピーターもスキップしながら追い掛けて行ってしまった。
「YESプリティダブルボム! YEAHHHH!」
「ボムなら不要に近づいていくのはよしなさいよ。ああもう……」
リオンもメロニアスの心に汚れが見えない事に妥協して、渋々と後に続いていく事にした。
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