第249話 五十代の意地
「街に被害が及ぶ前に炎で浄化せよ!」
ヘルヴィムに代わり、黒の狂信者へと指令を出した鼻眼鏡の男。しかして巨大な氷の大剣は、そのまま神罰代行人に向けて降り落ちていった。
氷を蒸発させる炎で水蒸気が高くまで上がっていく。だがリオンは、白煙の中を見つめて強く歯噛みしていた。
「ギィィエエエエエエエ――――ッッ!!!」
「あいつ、人間じゃないッ!」
高く飛び上がっていたヘルヴィムは、白煙に紛れながら氷塊の上を猛烈に走り抜けてリオンの頭上に躍り出た。そして天に煌めきながら巨大な十字架を振り上げる。
「聖十字ィィイイイ――ッ!!!」
地に落ちた莫大な氷の塊を粉々に砕き去った聖なる大槌。その風圧に民家の屋根は飛び、壁は引き剥がされていった。
都の被害など考えない両者の激しい戦い。
凄まじい風圧に髪を流したリオンは、白煙の中で佇む男を認める。
「その身体能力に妙な挙動をする武器……私の目には捉えられないけれど、何か未知の魔術を使っているのね?」
「ハ!!? なんだってぇぇぇ!!」
やたらと大きな声で吠えたヘルヴィムが、目を剥いて腕にイバラを纏わせ始める。
しかしここはリオンが機先を制す――――
「魔眼ドグラマ
魔力を打ち消す魔眼がヘルヴィムの姿を捉える。
「ぬ……!」
すると彼は上空を見上げながら、何やら呑気に話し始めた。
「妙な感じだぁぁ……魔力を封じているのかぁあ?」
「な――っ」
「生憎俺は、魔力というのを殆ど持ち合わせていなくてなぁぁッ!」
驚嘆したリオンが心臓を跳ね上げると、白煙に紛れて伸びて来たイバラが彼女の身を拘束していた。
「う――ッ!」
リオンが魔封じの左目で見詰めているというのに、イバラは不可思議に伸縮して、彼の右手には未だ巨大な聖十字が握られていた。これが魔術による結果出なくて何だというのだろうか。
「今、主の御名の元に! 断罪執行――ッ!!」
「うぁ――っ!」
もの凄い剛力で引き寄せられるリオン。このままその鉄槌の餌食になる事は目に見えていた――
「爆砕魔法『
何時の間にやら立ち上がっていたピーターが、拳に装着したアイアンナックルでイバラを殴っていた。
「ピーター……!」
彼の拳の触れた接触面で即座に爆発が起きると、イバラは弾け飛んでリオンは投げ出されていた。
「久しぶりに、カチーンと来ちゃった」
両手のアイアンナックルを叩き合わせたピーターの眼前で小爆発が起きる。そして全身を隆々の筋肉で押し固めたピーターが、足元で起こした爆風に乗ってヘルヴィムへと飛び掛かった。
「私とも遊んでよオ・ジ・サ・ン!!」
「あァんだテメェェ!!」
取っ組み合った二人の男の両手がガッチリと組み合う。そして立ち尽くしたまま、両者は力比べを始めた。
「ォォアアアアア――ッ!!」
「いやん、すんごい……力じゃない、のッ!!」
かつて脳のリミッターを外した死人をも力で凌駕したピーターであったが、ヘルヴィムの
「フンンヌゥァァァア!!」
「負けないわよ……おオゥら――ッ!!」
ピーターがヘルヴィムに頭突きをかます。着弾点――つまりヘルヴィムの顔面が、ピーターの爆砕魔法によって爆ぜた。
「ゥゥギィイァァァア――ッ!!」
聖人の張り上げた断末魔。そして無慈悲なる一撃を認め、リオンはらしくもなく声を張り上げていた。
「やったわピーター!」
鼻を鳴らしたピーターはほくそ笑むと、鼻をフンと鳴らして血を噴き出す。
「私に似合わず、ちょっと泥臭い形になっちゃったかしら?」
膝の崩れたヘルヴィムの顔面から黒煙が上っている。
その一撃で勝負は決まったかの様に思われたが――
「――ッへ?」
目前で立ち上る爆炎を眺めたピーターは、動揺を隠せないままに一泊を置くと、次に敵を賞賛する口笛を鳴らしていた。
「流石……五十代――っ」
「ぉオオオゥガォァア――!!!」
「――ぅブっ!!」
お返しとばかりに、今度はピーターの顔面を頭突きの連打が襲い始める。ヘルヴィムの掛けた鼻眼鏡が凄まじい連撃に耐え切れずに砕け散る。それでも彼は目前の顔面に、何度も何度も一心不乱に額を打ち付け続けた。
「カァッ――! カァッ――! カァァアア!!」
「フ……! ギ……! ごぁ……!!」
鼻を砕かれたピーター。しかし彼の瞳はまだギラついたままヘルヴィムを見下ろしている。
「ぉ……や、やるじゃない――――のォオッッ!!」
「ゥや!!?」
ピーターによる捨て身の頭突きで、両者の顔面は同時に爆発して吹き飛びあった。
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