第245話 悪意の道
*
「で、結局その神罰ってのは何なのよ?」
要塞都市とも形容されるケテルの鋼鉄の市壁を目前に認めながら、リオンは思い出した様にピーターの背に問い掛けていた。
「うーん。秘匿事項だから明確には分かってないんだけど、端的にいうと神の創りし世界の秩序を乱す者を排除するみたいな事だと思うわ」
「私達反逆者なのよ。それだと露骨に排除対象になるんじゃないのかしら?」
「……ま、まぁ。ミハイル様の庇護もあるし、今は仲間内で揉め合ってる場合でも無いでしょう」
「楽観的ね」
誤魔化す様に口笛を吹き始めたピーターは、閉じられた市門を遠方に認めて足を止めた。
陽光を照り返す鉄製の門の前に、二名の門番が槍を持って立っている。
「ダルフくんの今の姿を衆目に晒すのは心が痛むわね」
そう言った彼は荷物から大きな布を取り出すと、車椅子に座ったダルフにそっと被せる。
「気は利くのね。センスは無い癖に」
「誰が非前衛的だって!? 一言余計なんじゃい!」
「何度も言うけど、その非前衛的ってなんなのよ……」
野太い声を出したピーターに門番達が気付いて声を上げ始めた。門の内側に居る仲間にも伝令を飛ばしている。どうやら妙ちくりんなピーターのファッションに、早々と来訪者の招待に合点がいったらしい。
「ほら、見てみなさいよ小娘。皆私を見てるじゃない、これが私が前衛的であるという何よりの証拠よ」
「違うわ、ただ奇抜だからよ。馬鹿な人ね」
見下すような態度で待ち受けた門番は、布を被ったダルフの相貌を確認すると、「宮殿へ迎え、面倒は起こすなよ」とだけ冷たく放って門を開いた。
その様子からも、やはりミハイルから赦しを得ているという情報は周知のものらしい。
無論内心に滾る敵意は尋常では無かったが、こちらに危害を加えるつもりは無いという事がリオンの“心の形を移す視界”にも理解出来た。
都へと踏み込むと、そこに広がる光景はまさに炎の都然としたものであった。
鉄製品をふんだんに利用した家々、鋳造業を請け負っているらしい工場が幾つも立ち並び、空には絶えず火が上っている。
「熱くてたまらないわ」
胸元をパタパタと仰ぐリオンに、ピーターは指先で宮殿の在り処を示す。
「あそこよあそこ。まるで要塞ね」
「視えないって言ってるでしょう」
頑強そうな宮殿にはやはり鉄があしらわれていて、正午の陽射しにギラギラと照り輝いている。あそこに行けば天使の子メロニアス・エルヘイドに
「ワイルドな都ね〜。ちょっとやそっとの火災じゃあビクともしなさそう……あ、そうだ小娘。長旅だったんだから、とりあえずお茶でもしましょうよ」
「観光に来たんじゃないわ」
気分高揚するピーターの背をリオンは無理に押し進めていく。
「ちょっとぉ〜いいじゃないの少しくらい、ツマんない子ねぇ!」
「さっさと行きましょう。気分が悪いわ」
固く閉ざされた門を越えて現れた旅人に、都の民が気付き始めた。ダルフの姿は被せた布によって露見していないが、反逆者と行動を共にするリオン達の容姿についても情報が出回っているらしく、すぐに招待がバレてしまった。
「おい、あれ反逆者だろ?」
「て事はつまり、あの車椅子に座った野郎がダルフ・ロードシャインか」
「この野郎共が……お前等のせいで平和だった俺達の世界が」
彼女を取り囲む汚泥の様な心が、波紋の様に広がっていく。
「ふふん、やっぱりみんな私を見てるわねぇ〜」
大袈裟にポーズを決めたピーターであったが、流石の彼も妙な感覚に気付き始める。
「でも何か変ね、あんなに睨み付ける様な視線で見惚れて……私のファッションそんなに興味深い?」
「鈍感な人ね! この憎悪に気付かないの? ほら早く行って!」
ズイと押されるままにピーターは車椅子を押して都を歩き始めた。
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