第220話 私立セフト高校学園祭名物 男女混合水着コンテスト(part7)
激戦の末、鴉紋とダルフの激闘は同点という形で幕を下ろす。
「……ありがとうみんな、助かった! これはみんなで起こした奇跡だ!」
恥ずかしげも無くTバックで微笑むダルフに、鴉紋は歯噛みする。
「クソッ……!」
審査員はフロンスを残して居なくなり、私立セフト高校学園祭名物、男女混合コンテストは、同率一位という形で終わりを迎えると思われた――
『ちょっと待って下さいッ!』
互いの検討を讃えて手を打ち始めていた生徒達が、トッタの驚嘆する声に注目していく。
『今……特別ゲストの情報が舞い込みました……今しがた血で血を洗う歴史的争いを終えたというのに、まだ何かあるというのかッ!』
出場者の記された紙を受け取って、トッタは言葉を失った。
「なんだ、どうしたんだトッタの奴?」
『こ、こここ、こ……!』
ガタガタと震えたトッタは、白目を剝いて最後の出場者の名を呼んだ。
『エントリーNo.43…………えちえち保健室の先生!! マニエル・ラーサイトペントの登場だ!』
教師のエントリーに、全ての者が驚く事しか出来無かった。
しかし確かにルール上は問題無い。このコンテストの出場条件は――出場券を持っているというその一点だけなのだから。
「やっほ〜みんなー。私先生だけど出て来ちゃいました〜ふふっ」
その甘くとろけそうな声に、その場に居た全ての男子の目付きは変わってステージにすがり寄っていった。
その本能に抗え無いかの様に凶暴化して。
「新しい水着買ってみたの、見てみて〜っ」
「「「――――――!!!」」」
露出の激しいエメラルドグリーンの水着、そこから溢れ出す巨大過ぎるモチモチの柔肌。止めどない良い香りに大人の色香!
全ての男子たちは、餌を乞うひな鳥の様に、一心不乱に泣き喚いた。
「マニエル先生っ!! マニエルせんせぇえ!!」
「俺保健室行きます! 昨日も行ったけど、明日もきっと怪我すると思うから!!」
「うぁぉぉぁぁぉあ!!! マニエル先生いいいいぁ!!!」
阿鼻叫喚にも近い声を上げて、男子たちの飽くなき欲望が爆発する。
「仮病しちゃはしちゃ〜メッですよーふふふ〜」
揺れる殺人的球体に釘付けになり、全ての雄は前のめりになって鼻血を噴き出し始める。
『ほあっ……ホァァァア!! マニエル先生、先生!!』
「なぁにトッタくん?」
『あ、あの、実況者という立場を利用してでも問い掛けたい事があるのでふ……いい、ぃぃひひひ……』
「うんいいよ、言ってみて」
そしてトッタは、全ての男達の欲求の根幹に触れた。
『何……カップ、です……か?』
「お、おいトッタ、それは権利の乱用じゃないか!?」
「いや待て! 奴の英断を無駄にする気か!」
暴れ馬の様に駆け回りたいのを抑え、全ての男子は耳を澄まして一切の物音を立てなかった。
「「………………!」」
そして示し合わせたかの様に、瞬きする事も忘れて耳に全神経を集中していく。
「――――えっとねぇ……」
その緊張を解き放ち、マニエルはねっとりとした口元を開いて微笑んだ。
「Hで〜す」
「は…………?」
「え、いまなんて」
『え、ええええ、……え、ん!? お、あ!?』
「えいち?」
「エイチって……?」
「えいち、H…………カッ……プ?」
「「Hカップ!!!?」」
「もう、みんなオマセさんね」
前屈みになって投げキッスをしたマニエルの胸元が揺れる。
そして彼等の噴き出した鼻血のアーチ。その後の空には虹が掛かった。
筋肉軍団もシクスもダルフも鴉紋も、その場に居合わせた全員(フロンス以外)の男子が前のめりになって気絶していた。
男達の消え失せた会場で、電子掲示板に得点が表示される。
【200】
未曾有のフルマークが叩き出されたが、もう歓声を上げる男達は一人だって残っていなかった。
「男って馬鹿ね」
失神したダルフを見下ろして、リオンは忌々しそうにその背を踏み付ける。
「鴉紋……! 鴉紋の、馬鹿ッ!!」
セイルは鴉紋の横腹を全力で蹴り上げて走り去った。
静まり返った会場に気付き、ひとり残された審査員のフロンスが瞳を上げた。
「あ、じゃあグランプリはマニエル先生で」
呆気無く言い放たれた声に、マニエルは飛び上がって喜んだ。
「うふふ〜やったぁ!」
その拍子に暴れた爆乳を、失神している男子は皆無意識下のままスマホで撮影した。
全ての男子に意識が無かったにも関わらず、その場に居た全ての男子のスマホにはそれが記録されていた。
やがて私立セフト高校の七不思議として語られる事になる逸話である。
ふらふら立ち上がって屋台の方へと歩んでいくフロンス。
「お〜い君、迷子かい? マッシュルームカットの君だよ……
……そうかい、うん、それは大変だ……じゃああっちで、一緒にタコ焼きでも食べてお母さんを待とうかぁ……」
夕陽の射し込み始めた私立セフト高校。
彼等の学園祭は今年も無事で終わった。
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