第219話 私立セフト高校学園祭名物 男女混合水着コンテスト(part6)
『私立セフト高校学園祭名物、男女混合水着コンテスト。これ程レベルの高い争いになると一体誰が予想出来たでしょう! 精根尽き果てた死骸がそこらに転がり、我等審査員も三人を残し、残りは死に絶えました』
会場で舞い踊る黒い制服の筋肉達、他には精神の強い者が多少残されているばかりだ。
「あっヒャヒャヒャひゃー! 決まりだぁ兄貴の優勝はどう見ても明らかだろうが!」
腹を抱えて笑うシクスに、筋肉団も同調して笑い始めた。
「最後の一人なんてもう審査する必要もねぇよなぁ! 会場には俺達しか残されてねぇんだ、どう足搔いても兄貴の勝ちは揺るがねぇよ!」
下卑た笑い声にトッタは言い返す事が出来ずに首を振った。
しかしそんな彼を急かす涼やかな声が一つ起こった。
「トッタくん……最後の挑戦者を」
『ミハイル様、ですが……!』
「大丈夫だよ……きっと、僕達の予想を越えた旋風が起こる」
『それは……?』
「男女混合水着コンテストは、まだ終わってはいないという事さ」
全てを見通すかの様な視線にトッタは射竦められる。そして彼は手元の出場者リストを眺めてマイクを握り直した。
『エントリーNo.42! 我等がセフト高校生徒会長! その高尚なる志、貫き通す正義の意志に、我等生徒は皆魅了された!』
何時しか陰っていた空が、雲を割り光を落とし始める。
『例え無駄だと分かっても、誰が無謀と笑おうと! この男ならば何かを残してくれると信じている! ダルフぅウウウ・ロォオオオドシャインッ!!』
――その瞬間、鋭い光に照らされた彼の体は光り輝いた。それは偶然か、はたまた神が彼を祝福しているのか。
『なんだぁあ! 眩い光り輝いたが彼を照らして……ッその全貌を視認する事が出来ない!』
敵意剥き出しのナイトメア高校の面々が、ステージの中央に立ったダルフへと牙を剥く。
やがて雲が晴れて瞳が慣れて来ると、彼の姿が衆目の前にさらけ出される。
鋼の意思を宿した精悍な表情で、ダルフは金色の瞳を瞬いた。
「なぁ……なぁッ、なぁッッ!! ダルフくん!!?」
「ふふ……フフフフフッ」
その姿を目撃したピーターは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をして、隣のミハイルは不敵な笑みを溢すのを止められなくなった。
会場に立ち尽くすリオンは、風に流れ始めた髪を撫で付けながら眉をしかめる。
「貴方、正気なのダルフ?」
威風堂々としたダルフが纏うは、一枚の布――
それただ一枚の、潔い姿――――
泡を吹きながら目を血走らせるピーターが、そしてミハイルがその二の句を継いでいった。
「てぃ、てぃてぃてぃ……T――――」
「――――バック……!」
全裸同然そのあられも無い姿に、鴉紋が声を荒げていた――!
「Tバックだと――――ッ!!!」
金色に照り輝くラメを施したTバック一枚で、ダルフはその壇上に立っていた。
意表を突かれたピーターは、ゴクリと生唾を飲んで首を振る。
「水に対する抵抗を極限まで減らしたその姿……こと水着という審査基準において、これ以上の理想像は無いわッ!」
大胆に背中を向けたダルフの、剥き出しになった尻がプルンと揺れる。
わなわなと震えながら全身を力ませた鴉紋が、信じられないものを見ているといった風に愕然とした声を絞り出していた。
「恥ずかしく無ぇのか貴様……ッ!」
羞恥心など微塵も感じさせない態度のダルフは、正面に戻って鴉紋へと声を返す。
「そんなものはとうに捨てた……お前に勝つ為ならば、俺はモラルのギリギリまでいく!」
「モラルの……ギリギリ!」
「この剥き出しの姿は、俺が清廉潔白であるが故だ」
「あ?」
「清廉潔白として、ただ純粋なる正義として! 俺はお前という悪を討つんだ!!」
ダルフの放った正義の波動。その果ての無い光の力に、筋肉団は後退りながら顔を見合わせる。
舌打ちをしてシクスが歩み出る。
「やいやいやい! 対して度胸だがよ生徒会長様ぁ! お前がどれだけ気張った所で! もうこの会場にはお前を応援する奴が残っちゃいねぇんだよぉお!」
「……」
「見てみろこの無惨な光景を! 何とか言ってみやがれよ!」
ダルフが見渡すは、愛すべき生徒達の死体の山。確かに彼にはもう勝ち目が無いのかも知れない。それを悟ってしまい、トッタは悲痛の声を漏らし始める。
『こうなってしまってはもう……我等がセフト高校のグランプリは……っ』
「本当にそう思うのかトッタ?」
『生徒会長……?』
そしてダルフは、その輝かしい瞳を滾らせて腕を振り上げる。
「我等がセフトの生徒達が、心の全てを悪に明け渡したと……」
『……!』
「誉れあるセフトの民は、決してその芯までは穢されない!」
ニヤついた筋肉軍団。しかし彼等を取り囲む死体の山で異変が起き始めていた。
「ダルフ……くん」
「会長……」
起き上がり始めた生徒達を認め、クレイスはひどく動揺した。
「馬鹿な!? なんでお前ら……死んだ筈だ、鴉紋様の魅力に骨の髄までしゃぶり尽くされて……!」
みるみると起き上がり始めた生徒が、壇上のダルフへと歩み寄り始める。
「ダルフ様……!」
「勝って下さい、俺達の栄光を……ナイトメアの奴等に渡しちゃ、駄目だぁ」
「……ダルフさん」
死者が心を呼び戻し、その眩い光へと集い始めた。
シクスも顔を青ざめさせて狼狽えている。
「おい、何が起きてんだよ! 何とか言えやこらぁ! コイツら全員兄貴の魅力で死んだ筈だろうが!」
メシアの様に光を結集したダルフが、伏せた瞳をシクスに向けて答える。
「我等が高潔の心は決して挫け無い……例え悪に魅了されようと、正義を宿した民達は必ず戻って来る」
「んな……無茶苦茶な!!」
瞬く間に数の拮抗し始めたセフトの生徒が、ダルフに声援を送り始める。
「会長……生徒会長……」
「頑張って」
……それは弱々しかった。けれど次第に力を増し――――
「いけ! ダルフ……お前が一番だ!」
「ダルフくん! 頑張れ、私達の未来の為に!」
――最後には大声援へと変わっていた。
「ゥオオオオオア!! ダルフ負けんじゃねぇぞ変態野郎!!」
「お願い勝って!! 変態でも、私達はずっとずっとダルフくんのファンだから!!」
「「ダルフ! ダルフ! ダルフ!! Tバック!! ダルフ! ダルフ! ダルフ!」」
苦虫を噛み潰すナイトメア校の生徒達。そして実況のトッタも息を吹き返し始めていた。
『勝て!! 勝ってくれ! 我等が栄光の為に……いいや、正義の為に! 生徒会長!!』
覆り始めた状況で、鴉紋は苦悶の表情をして激情した。
「うおおおオッおのれ! ダルフゥウウ――ッ!!」
審査員席のピーターは、その奇跡に呆然としていた。そしてふと隣を見ると、ミハイルの視線が彼と向かい合う。
「言っただろうピーターくん、狂うのはまだ早いって」
「あ……あなた、一体何処まで見えて……っ」
ダルフに声援を送る生徒達であったが、ナイトメア高校もそのまま黙している訳では無かった。
「「ぶーーッ!!! ぶーーッ!!!」」
筋肉軍団の凄まじい声量で、ダルフへの声援がかき消されていく。一進一退で拮抗する中――
「旦那!!」
「ダルフさん! 遅くなりました!!」
ダルフを呼ぶ友の声が、閃光の様に響いた。
「グレオ! バギット!」
そこに居た他校の制服の二人は、ダルフの旧友であった。
「悪かったな旦那! 応援に来んのが遅くなっちまった!」
「バギット……来てくれたのか、ありがとう」
「ダルフさんを応援する為に、僕達はこんな物を作っていたんです!」
「グレオ……それは?」
二人が掲げるは、ダルフの名が書かれた大旗であった。
「……ッ!」
「なんで旦那がそんな格好をしてるのかはひとまず聞かないでおいてやるよ!」
「ピンチなんでしょう、ダルフさん!」
大旗を空に上らせていく二人の友の姿に、ダルフは静かに涙を流して声を返していた。
「あぁ…………。助けてくれ、グレオ、バギット!」
「あいよ!」
「はい!!」
駆け付けた二人の大声援に、セフトの生徒達は勢い付いて声量を上げていく。
しかしクレイス達も死力を尽くしてそれに対抗する。
「お前等まけるなぁぁあ!! 筋肉を信じろぉおおお!!」
「「ブーーッ!!! ブーーッ!!!」」
絶え間ない攻防が続く。
「オンぁぉあ!! ダルフくん、ダルフきゅん!! とうと、尊すぎ……るッ」
美しき漢達の友情に、ピーターは失神しながら絶頂していた。
「ダルフくん……とても素晴らしい……僕の想像を越えた光景をありがとう……奇跡の男よ」
ミハイルは口からマーライオンの様に吐血して気絶した。
『そこまで――――ッ』
トッタの声で会場に緊張感が走る。
「お願い鴉紋」
祈るセイル。
「どっちでもいいわよもう」
傍観するリオン。
そして集計されたポイントが電子掲示板に表示された。
【192】
『どうううううてん!!? 同点だ!! こんな事があるのか! 神のいたずらじゃないのか!? 歴代最高得点の二人が得点を並べたァァァ!!』
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