第216話 私立セフト高校学園祭名物 男女混合水着コンテスト(part3)
*
『エントリーNo.36ベポ・ナックルベルくんでした〜』
「オラ、頑張ったどぉ」
『さぁ評価の方は?』
審査員達が札を挙げ、会場の盛り上がりが加算された点数が電子掲示場に叩き出される。
【2】
『2点! 2点です!』
「やったぁーやったど〜」
『200満点中の2点です! 衝撃的数値です!』
「いぇ〜い、ヨフエちゃ〜ん!」
ベポがステージから降りていくと、審査員席では深い溜息が漏れた。
「なーんだか例年レベルが下がっていってるわね。恥ずかしがって露出もアピールも控えめだし、ファッションだって凡庸。セフト高校の伝統とやらも、そろそろ潮時かしら……ねぇ、ミハイル様」
星形のサングラスを下げたピーターに、ミハイルは肩をすくめて頷いた。
「最も、審査員の質とやらも低下しているけどね、ピーターくん」
ミハイルが言う通り、ベダは目を開いたまま寝息を立てているし、ワルトはヒゲを整え、カルクスは鏡に映る自分に夢中になっている。他の面々も何処か上の空で、ルイリは出場者に「脱げッ脱げッ」と堂々とセクハラをしているし、ザドルに関しては手元に聖書を広げ、恍惚の表情で空に向かって十字を切り続けている。フロンスはどういう訳なのかステージより客席に夢中な様だった。
『さぁ次です。エントリーNo.37……な、なんとあの悪名高きナイトメア高校の生徒です! それではどうぞ、セイルさんです!』
その瞬間、眠たげにしていたミハイルの眼光がギラつく。
そして何処か盛り上がりに欠けていた会場に間もなく、血の嵐が降り注ぐ事になった。
「な、なんで私が出なくちゃいけないのよ……!」
会場中の男子が、突如として現れた女神に目を飛び出させ、そのあられも無い姿に鼻血を噴き上げた。
『うおおおおおお!!! なんだ、なんだなんだなんだこの少女は!! 堪らんッ!!』
頬を赤らめてモジついたセイルは、赤い水着を着用させられて肌を隠そうとしている。しかし意外にも飽満であった彼女の柔らかき
『うぬぅうああああ!! か、カワイイ! その小さな体に、溢れ出す柔肌……そして何処に隠していたんだソノ大きなオッパ、おぱ、おっぱ、ほ、ほ、ホホォオイッ!!』
血の吹き荒れる会場で、学ラン姿のある男が両手に扇子を開いて騒ぎ出した。
「セイルちゃんッか、か、かんわ、かんわいいよぉお!!」
「げ…………ゼル、ちょ、ちょっと撮らないでよ!」
「うううおオオォォォ!!」
扇子を投げ出してカメラを連射したゼルは、最後には血を吹き出して死んだ。悔いの無いような、とても満足そうな表情を見せながら。
「うおおおセイルさん! 我等がナイトメアのマドンナ!」
クレイス率いる筋肉軍団達が吠え狂い、狂喜乱舞となる会場。
審査員席のピーターもまた、彼女のファッションと肉体美に薄い笑みを見せ始める。
「逸材ね。小娘自身には興味無いけど、モデルとしては素晴らしいものを持ってるわ……!」
審査員席の男性陣も皆、手を止めてステージを凝視している様だった。(フロンス以外)
「ほ、ほおお……! 幼げな少女の身体から、立ち上り始めたセクシーという妖艶……ぉぉ、ほぉおお!! 子どもから大人へと成長していくこの肉体的モラトリアム……ほぉ、ほおおおお神よぉおおッ!!」
ザドルが白目を剝いて机に倒れ込んだ。恥じらう少女の姿が彼の直球ストレートであった様子だ。
『さ、さぁ名残惜しいがここまでです……さぁ審査点は!』
【178】
『うおおおこれは!! この男女混合水着コンテストの歴史に残る高得点をマークッ! 気絶したザドル先生も執念で10点の札を挙げているぞ!』
「もうッ二度と出ないんだからね! 皆死んじゃえ!」
逃げる様にそう吐き捨てていったセイルに、会場ではまた血が吹き荒れ始めていた。
「すごいわ、凄かったわ! 優勝はあの子で決まりよ!」
「いんや、どうだかなピーター先生……」
「ワルト先生!」
「俺はある噂を聞いた……今年の男女混合水着コンテストに、あの氷の魔女が立つとな」
「ワッツ? あり得ないよMr.ワルト……あのお堅い副生徒会長が、容易に僕等に肌を見せるなんてね」
カルクスとワルトが視線を交わしたその時、実況席では次の出場者リストに目を通したトッタが、目を血走らせているのだった。
『な、なんと、凄い……これは、お前達! ここからラストまで、この波乱は止みそうにないぞ、これは運命の悪戯かぁ!!』
感じ始めた確かな予感に、審査員席に座った強者達は、昔の勘を取り戻しながら不敵な笑みを漏らし始める。
『エントリーNo.38な、なんと……我等がセフト高校……生徒会副会長!! リオン様だぁあ!!!』
行き着く島も無いままに、凛と現れた美貌。その圧巻過ぎる美しさに、会場は彼女の異名通りに一瞬、氷漬けとなった。
「な、なな……な……!」
黒の水着からスラリと伸びる透き通った白き四肢、そして絹の様な黒髪を払い、リオンはくびれた腰に手を当てて顔を上げた。
「全く……埋め合わせはしてもらうからねダルフ」
ふてぶてしい表情で、彼女は勝ち気に顎を挙げた。
凍り付いた会場がフツフツと沸騰を始める。それは徐々に広がっていき、遂には男女の乱舞する狂宴と化した。
「ごめんなさい坊っちゃま。お先に逝きま…………」
「ウェービー!!」
カルクスの目前で目尻から血を流した老人が地に伏せた。完全に事切れているが、その手にはしっかりと10点の札が握り締められている。
「Shit……ウェービー……ぅっ、無理も無いか……絶対に見る事の出来無かった景色、誰もが望み、けれど決して届かなかった高き山の向こうのエデン。それが突如として、我等が前にその御身を晒したのだから……」
カルクスはウェービーの亡骸を優しく撫でながら、血の涙を流して歓喜する。
「She is a beautiful Queen……」
カルクスは全身の穴という穴から血を噴き出して死んだ。ウェービーの上に覆いかぶさる様にしながら、手に10点の札を立てて。
「あまり騒がないで。鬱陶しいわ」
「「ハフゥオオオオオ――ッ!!」」
彼女が冷酷な言葉で観客を一蹴する度に、客席で卒倒していく者が増えていく。
「何がそんなに嬉しいのよ、気持ち悪い」
「「フンヌァォア――!!」」
リオンに非難的な目を向けていた筈の筋肉軍団員も、血の涙を流して倒れていく。散っていく仲間達を眺めてクレイスは咆哮する。
「逝くなぁあ! おまえらぁあ!!」
審査員席で感嘆の声を上げたミハイルが、ワルトに語り掛け始めた。
「これは驚いたね、フフ……ん? ワルトくん?」
溢れ返った鼻血でヒゲを赤く染めたワルトは、虚ろな目をして立ち上がる。そしていそいそと、意識があるのかも判然としない様子で、足元からゴソゴソと何かを取り出していく。
「ワルトくん……君は、リオン推しだったのか?」
「行くぞおおお!! リオン様親衛隊!!」
ワルトは白き鉢巻を巻き、背に『リオン命』と書かれたはっぴを着て客席へとダイブしていった。するとみるみると、同じ姿をした血塗れの男達がフラフラと集い始める。
「リ・オ・ン! リ・オ・ン! リ・オ・ン! はい!」
「「リ・オ・ン! リ・オ・ン! リ・オ・ン!」」
普段モゴモゴとしか喋らないワルトが、目を剥いて絶叫している。彼が密かに結集させていたリオン親衛隊は、ここぞとばかりの晴れ舞台に笑顔で死んでいった。
最後の一人になるまで気迫で耐え抜いたワルトは、今際の際に少年の様な笑顔を見せて心停止した。
「ありが……ぅ……も、悔いは、無…………」
『うわぁぁぁあリオン様ぁぁあ!! もっと眺めていたいが、得点いくぞおお!!』
【179】
『うおおおおおおぁぁあ!! とてつもない激戦の末、ただ1点だけセイルを上回ったぁぉあ!! これは歴史に残る戦いだぁあ!!』
「もういい? 帰るわよ」
リオンがステージを去ると、ただ二人の少女の登場で血の海と化してしまった会場が残された。
「貴方達何やってるんですか?」
死屍累々の光景を眺め、つまらなそうにしたフロンスの声が落ちた。
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