第215話 私立セフト高校学園祭名物 男女混合水着コンテスト(part2)
「ば……かな! お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「無論だ……そしてお前も知らぬ訳では無かろう……由緒正しき我が学園祭名物、男女混合水着コンテストのグランプリに輝いた者は輝かしい栄光を手にするという事を!」
「く……っ」
刺す様な金色の視線に見下ろされた鴉紋が、一歩一歩とよろめきながら後退していく。
「ふざけるな、こんなものに俺が出場する訳が――」
「おうおうおうおう!! 良い度胸じゃあねぇかこのスットコドッコイが! 兄貴の肉体美にテメェらみてぇなモヤシ貴族共が敵うと思ってんのかよ!」
「シクス……!」
「ナイトメア高校の看板背負ったうちの兄貴が負ける訳がねぇだろうが! あぁん!? 舐めてっとぶっ潰すぞゴラぁ!」
「やめろ……シクス!」
余程鴉紋を信頼した様子のシクスが、彼によって挑発行為と解釈された挑戦状に、我を忘れてブチ切れていた。
「お前は確か……ナイトメア高校三年、二年連続留年の『荒くれサイコのシクス』」
「このダボがぁ! やってやろうじゃねぇか、なぁ兄貴!」
「フン……決まりだな」
振り返ったシクスを、鴉紋は必死の形相で羽交い締めにする。
「シクス! 勝手に話しを進めるな!」
「あん? どうしたんだ兄貴!」
「おい待てダルフ! 俺はまだ出場するとは……」
「うおおおおおおお!!! 鴉紋様ァァァ!!」
後方から二人の会話を中断させる程の絶叫と共に、全力疾走で駆け付ける者が現れる。
「鴉紋様こそ筋肉の化身! 見せ掛けだけのハリボテ筋肉では無く、真なる筋肉を持つ筋肉の塊ィィァ!!」
巨大な上背のその男は、さらしを巻いた裸体の上に前を開けた学ランを着ていた。貫禄のシワに浅黒い肌、どう見ても高校生には見えない暑苦しい男が二人の間に割って入っていた。
「筋肉の事を俺以上に理解している者などおるまいっ!! 鴉紋様ァア貴方の勝利は確実だ! 応援団長として、爆心猛意鼓舞する所存!!」
「オ、オマエは出て来るな!!」
ダルフは興味深そうに、そのむさ苦しい男の相貌を認めて口に出す。
「ほう、お前はナイトメア高校三年、十二年連続留年の伝説『干支一周のクレイス』か……」
「ウオオオオオッッ!!! 鴉紋様!! 我等が応援団の奮い立つ気迫を見よ!!」
クレイス率いる筋肉軍団の咆哮と足踏みが、セフト高校の敷地を震わせる。
「では待っているぞ鴉紋。出場権は二枚だ、じっくり考えて望むが良い」
「待てよ、勝手に決めてんじゃ……!」
耳を塞いだダルフが踵を返して去っていく。
動揺を隠せない鴉紋は、セイルに反対する様に促そうとした。
「……おいセイル頼む! こんな馬鹿げた決闘があって良いのか!」
「……アヘェ…………」
「セイ、ル…………?」
瞳を輝かせて恍惚とする彼女に、鴉紋は言葉を失うしか無かった。
*
午後二時、盛大なるファンファーレと共に、野外ステージで花火が打ち上がる。
『さぁ〜!! 今年もやって参りました! 私立セフト高校学園祭名物! 男女混合水着コンテストぉおおお!!』
ひしめき合う観客が盛り上がりを見せる。運動場に設営された会場には、セフト高校の生徒のみならず、一般の客や他校の生徒で溢れ返っている様だ。
『実況はこのトッタ・ルーフェイン! そして審査員の方々をとっとと紹介するぞぉ!!』
ステージの最前列に並んだ長机に、そうそうたる顔ぶれが座っている。
『まずは何よりこの御方! 遥か創立の時から学園長の座に座り続ける男……ん、いや女!? 一体何歳!? ミステリアスキング、神話の校長ミハイル様だぁ!』
「うん、性別や年齢なんて些細な問題だよ。みんな今年も楽しんでいってね」
『生徒指導担当、恐怖の女美術教師、ルイリ・ルーベスタぁあ!!』
「うるせぇええ! とっとと裸体を見せろブッ殺すぞ糞が糞が糞がぁ!!」
『陰険数学教師! 不潔のワルト・ワーグナー!』
「お前らは皆虫ケラです。その事を忘れてはいけません」
『思考壊滅ゲボクソ家庭科教師! ベダ・フォード!』
「あ、ちょうちょ……喰わせろ、喰わせ、くく、喰わせろげっひひひ。……ん? んなぁー! 誰がゲボクソだクゾチビ!」
『名家中の名家出身、音楽教師のカルクス・ヴェルダント! ……と、お付きの執事! ヴェービー・チャンバス!』
「oh下品な審査員たちだねぇ……僕の美しさで中和させてあげなきゃぁ……Ah!」
「坊っちゃまがこの様な晴れ舞台に……ぅうっ、ほれ、紙吹雪ですぞぉ!」
『その笑みと底無しの優しさが逆に怖い!? 教頭! ザドル・サーキス!』
「この様な場に居られる事、神の祝福、そしてお慈悲に! 感謝しますゥウオオアアっ!!」
『圧倒的男性票をかき集める大人気レディ! だが裏の顔があるとの噂も? 保健室のえちえち先生! マニエル・ラーサイトペント!』
「――――」
『ん? 不在、トイレですかね? んーーまぁ次ぃ!
何故だが誰よりも危険な香りがするのは何故だ! 保健体育専属教師!? フロンス!』
「審査員なんてガラじゃ無いんですよね私。それよりも会場にお越しの少年達に学園を案内したい」
『そしてラストは特別審査員、ブティック『ラブハリケーン』も経営する奇怪体育教師! 奇抜の男、ピーター・ウィルフォットぉお!!』
「辛口ファッションチェックしちゃうわよん……ついでに好みの男子もつまみ食いしちゃったりしてっ……やんッ」
審査員の紹介を終えると次は、トッタは審査ルールを口早に説明し始める。
「審査は一人ずつ、そしてその順番はクジによって決定する。その後審査員それぞれの10点満点の評価の後、会場のボルテージに応じたポイントを付与致します! ん〜! 今年の栄冠は誰の手に! さぁとっとと始めやがれ!」
足早に何処かでゴングが鳴り響き、伝統のコンテストが開幕した。
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