【番外編】

第214話 私立セフト高校学園祭名物 男女混合水着コンテスト(part1)

 

「ダルフ」


 生徒会室のドアが勢い良く開け放たれると同時に、白いブレザー姿の少女が飛び込んで来た。


「来たわよ……予告通りに、白昼堂々とね」


 赤い目を押し開いた少女は、黒のロングヘアーを揺らして一人椅子に座る男に告げた。

 呼び掛けられた生徒会長と思しき男は彼女に背を向けたまま、金色の長髪を涼やかな風にたなびかせて、手元に握った封筒を握り潰す。

 その封筒の表紙には『果たし状』と墨で書き殴られている様だった。


「ありがとうリオン」


 彼はおもむろに立ち上がると、由緒正しきセフト高校の白き制服を陽光に照り輝かせた。

 ――そして振り返ると、ダルフの金色の瞳が副生徒会長のリオンと向かい合う。


「歴史ある我等がセフト高校学園祭は穢させない」


 決意を秘めた男の眼光に、リオンは無表情のままに頷いた。


   *


「どらどらどらどらぁ! 退けよクソお坊っちゃん共!」


 私立セフト高校学園祭当日。華やかな催しで賑わう学園が、黒い学ラン姿の集団によってかき分けられていた。


「白、白、白、白! どいつもこいつも清順そうでイケねぇや! げヒャヒャヒャっ汚したくなっちまうぜ!」


 白き制服姿の男女を押し退けて、肩で風を切ったオールバックの男は舌を突き出している。

 怯えてしまった生徒を愉快そうに見渡しながら、極度の短ランとぼんたんを揺らし、集団の先頭を荒々しく闊歩していく。


 セフト高校の生徒達は、不穏な空気を垂れ流すその黒の集団を見つめて声を漏らし始める。


「おい、あれって」

「ああ、ナイトメア高校の奴等だ」


 荒くれ者の短ラン男の直ぐ背後には、深く学生帽を被った長ランの男と、セーラー服姿の赤髪の女が居る。そして一際目を引くのは、その後方に何処までも続く、異様にガタイのデカい筋肉集団。

 短ランの男が、懐から棒付き飴を取り出して口に含む。そしてコロコロと口元で転がしながら、巨大な校舎に向かって声を張り上げ始めた。


「ダルフだ! ダルフ・ロードシャインを連れて来い!! 鴉紋の兄貴が出向いて来てやってんだ!」


 その宣戦布告に生徒達のざわめきは一層と大きくなっていった。


「ダルフって、生徒会長のダルフ・ロードシャインさんの事か!?」

「見目麗しき高潔のダルフ生徒会長に、こんなゴロツキ共が一体何の様があるっていうんだ」

「いや待て、俺は聞いた事があるぞ。この辺一帯を取り仕切ろうと目論むナイトメア高校の番長と、ダルフ生徒会長は因縁の中であると……!」

「ええ、私達セフト高校の生徒が無事なのは、ダルフくんが影で私達を守ってくれているからなのよ!」


 短ランの男は額に青筋を立てて続けていく。


「おいおいおいおい、ビビってやがんのかぁ!? 兄貴の送った果たし状は届いた筈だぜ! この衆目の中で無様に負けるのがそんなに怖えのかぁ〜あぁ~ん!?」


 すると後方から、筋肉軍団の地鳴りの様なら咆哮が起き始める。


「フンがぁあッ!! チビってんのかぁ!!?」

「鴉紋様に勝て無いと分かってぇ、ガタガタ震えてんじゃねぇのかお坊ちゃまぁ!!」

「フンハハハハ!!」


 振動する校舎を前に、ニヒルな笑みを刻み込んだ短ラン男は、周囲でビクついた生徒や屋台を舐める様に見やる。


「出てこねぇならぁ〜……このシクス様が、お前らの大切な学園祭をブッ壊しちまおうかぁ!!? ひひゃひゃひゃ!!」


 シクスの毒牙が罪無き生徒達へと及ぼうというその瞬間であった――


 後方で黙していた長ランの男が、学帽から鋭い視線を滾らせて前へと歩み出した。


「兄貴……?」


 一瞬早くその緊張感を感じ取った番長を、周囲の者は固唾を呑んで見守るしか無かった。

 ただ一人、彼の隣に佇んだ赤髪の少女は呟く。


「来たよ、鴉紋」

「分かってる、セイル」


 ――強烈な風に花吹雪が上がる。そして彼は悠々と、臆することも無く現れた。

 煌めく細やかな髪、白く透き通った肌を臆面もなく披露して、眼光鋭い高潔の男は黒の集団の前に立った。


「ダルフ、俺のラブレターが届いたみてぇで……嬉しいよ」

「今どきラブレターを墨で書き殴る奴は始めて見たよ……終夜鴉紋」


 渦巻き始めた緊迫に、彼等二人を残して輪の様に空間が形成されていく。それぞれの男の背後からは、リオンとセイルがバチバチと視線を交錯させていた。


「くっく、あいにくうちは古風でよぉ……現代に生きるどっかの貴族様みてぇなテメェにゃあ、到底理解出来無いんだろうぜ」


 学帽を地に叩き付けた鴉紋は、人が変わった様に饒舌に語りながら握り拳を作っていく。


「198戦99勝99敗。次に100勝目を飾った方を、この闘争の勝者とする……そうだったよなぁ、ダルフ」

「……」


 顎を上げてダルフに歩み寄った鴉紋が、感情の読み取り辛いダルフを目前にして、拳を振り被った。


「いくぞダルフ――――!」


 そして解き放たれた豪腕の風切り音に、生徒達が悲鳴を挙げた――――


「――どういうつもりだ……?」


 ――どういう訳かその拳は、ダルフの鼻先スレスレで静止していた。こちらに手出しするつもりの無い男を睨み付け、鴉紋は噛み付く様に問い質す。


「ダルフ……!!」

「学園内は暴力禁止。並びに決闘行為も勿論禁止。……我が父の代より脈々と受け継がれてきたこの学園祭を、貴様の蛮行で泥を塗る訳にはいかない」


 モゴモゴと口籠りながら憤怒した鴉紋の胸、丁度心臓部分に、一枚のチケットが突き出されている事に今更気付く。


「あ…………?」


 鴉紋は緩々と視線を下げていきながら、何かの催しの出場権らしい、チケットに印刷された文字を読み解いていく。


「私立セフト高校学園祭名物、男女……混ご……――なッ!」


 驚嘆した鴉紋に申し込む様にして、ダルフの毅然とした声が構内へと響き渡っていた。


「私立セフト高校学園祭名物、男女混合水着コンテストで勝負だ!!」

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