第210話 この悪夢を終わりにしよう
マッシュの中で拍動を始めたナニか。鴉紋はギルリートの行った非人道的な行為に、額に青筋を立てて
「マッシュを……俺達を何だと思っていやがるギルリート!」
せせら笑うだけのギルリートは、嬉しそうにその怒声を聞きながら、淡々と口元を動かす。
「
――そこで魔人達が一斉に鴉紋へと飛び掛かってきた。
「「コキィィイイギ!!」」
覆い被さって来る光の群れ。それを見上げて鴉紋は拳を引き絞っていく。
「俺の役目が何かと聞いたよな……」
満身創痍であった筈の鴉紋の腕に、確かな力が湧き上がっていく。まるで身の内から、力の源泉が微かに流れ始めたかの様に――
鴉紋の体を侵食していく闇が、蠢いて首元まで染める。それに呼応するかの様に、また微かな闇が、そして力が体に纏わりついていく。
「のォらぁあッッ!!」
「「アッギィイイイイぁあッ!!!」」
化身の翼を掴んで引き千切り、四肢をぶち抜いて振り回す。激しい乱戦を豪快な蹴りで一閃した鴉紋が、息を荒げてギルリートを睨めつけた。
「お前達に苛まれ続ける、赤い目を救う為に」
「……」
「お前達に虐げられし、
「…………は?」
ギルリートはその目元のマスクの為に、感情を推し量り辛い。だが今、彼がどの様な感情であるかは、押し溜まって肩を震わせ始めた様子からありありと分かった。
「貴様、ロチアートを
ギルリートを中心にして強くなっていく黒の暴風、そして滾り、より一層と激しく噴出する暗黒に
「忌まわしい……」
カルクスの
“Oro supplex et acclinis,cor contritum quasi cinis:”
(私は灰の如く砕かれた心で
「よもやこの俺の前で、赤目の下等生物が人間と同類だと……」
鴉紋の目前で、悪意の塊が拡散して全てを覆い尽くす。
そこから漏れる果てしの無いエネルギーに、まるで災厄と相対している様な無力感を覚える。
「……っ」
鴉紋の体が、心が、ただその恐怖に萎縮していった。
そして莫大なるパワーがギルリートの腕に集結し、巨人の様な黒腕へと変貌していく。
「それは今のお前の身の丈にあった願望なのか?」
「……」
「この後に及んでそう吐き散らしているのなら、片腹痛い……そして、腹立たしい」
――
“gere curam mei finis.”
(終末の刻をお計らい下さい。)
冷酷なる圧力に震えた瞼を押し上げ、鴉紋は歯を喰い縛って半身に構えていく。
「マッシュだけは救う。それが俺に残された最後の責任……たとえ刺し違えても、貴様の首筋に喰らいつくぞギルリートっ!」
「何処かで聞いた言葉だ……」
最早言葉も返す事も
そして押し留めていた力は
「もういい、お前の
明確なる殺意にその身を氷漬けにされ、鴉紋は苦悶の表情を刻む事しか出来なかった。
「貴様の声は、このギルリート・ヴァルフレアの耳に入るには、
力を一挙に噴き出したギルリートの一撃を喰らえば、もう鴉紋に生還する術は無いという事が、目前で逆巻くエネルギーから如実に物語られている。
いとも簡単に身を貫かれ、胸に風穴を開けられて息絶えるのだろう。
まるで梨理の最期と同じ様にして……。
「この
六枚の闇が空を裂くと――
――気付いた頃にはもう、ギルリートは眼下で拳を引き絞っていた。
「――――ッ」
「何も護れず、誰も助けられなかったなぁ、鴉紋――ッッ!!」
不敵に嗤うギルリートの声が、その姿が、鴉紋の内の影と重なる。
――紛れも無く絶命する自らの瞬間に、剥いた眼の見る景色はスローモーションになった。
――ごめん。みんな。
――――ごめん…………。
死の瞬間に見たイメージは、忘れてしまった梨理では無く、共にこの世界を駆け抜けて来た、仲間達の、そして彼女の笑顔だった。
「――――セイ……ル――――」
「『
――凛とした少女の声と共に、突如として、黒き火の雨がホールに降り注いだ。
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