第173話 怪しき刺客
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森の深くに転移した鴉紋達。それぞれが得物を抜いて臨戦態勢となると、早くも正面から草木を踏み締める物音がする。
鴉紋に肩を貸したセイルが後退していく。
「鴉紋は私と居て」
「だが……音からしてそれなりの人数が居るぞ?」
「大丈夫なの!」
グラディエーター達は陣形を組み、クレイスを中心にして盾を構える。
「心配御無用です鴉紋様」
「まぁ兄貴は黙って見てろよ。直ぐに奇天烈な奴が出て来るからよ」
クレイスの笑みに続いてシクスが欠伸をする。先程からの緊張感の無さはどういった経緯なのだろうか。
木立に囲まれた少し開けた場にて敵の襲来を待っていると、直ぐに木々の隙間から妙な存在が見えて来た。
「おい、セイル……なんなんだこいつらは?」
およそ五十にも及ぶ敵の数も然ることながら、クレイスが
彼等は等しく、
光の剣を握り締め、ただ宛も無く彷徨い歩く光の亡霊。
「チャチャッと終わらせようぜクレイス! 腹減っちまったからよ!」
「あぁ! 行くぞお前達!」
グラディエーターが咆哮すると、光の戦士達は顔を上げてこちらに駆け寄って来た。
「ハッハァーーッ!!」
「随分はしゃいでいるなぁシクスくん!!」
鴉紋はそれから一方的な殺戮を見る事となる。
「げヒヒヒヒャ――ッ!!」
「薙ぎ払えお前達ッ!!」
光の魔人達は、ただ真っ直ぐに走り来て剣を振り下ろした。まるでそれしか知らぬかの様に、単調にそれを繰り返す。
「どうなってる……」
怪訝な顔付きをした鴉紋は、弱過ぎる彼等に違和感さえも感じていた。
シクスとグラディエーター達がバッタバッタと敵を切り付けていく。
「ほらほらほらほらぁ!! 何とか言ってみろよ、痛いんだろぉ! 鳴いてみせろよほらぁ!! 痛いって痛いって痛いって痛いって言えよぉお!!」
「笑止! この程度ならば一人でも事足りる!」
切伏せられても声も出さない光の魔人。それでも彼等は単調な動きを繰り返し続けている。
まるでそうプログラミングされた機械でしか無い様に。
敵の数は五十。こちらもおよそ五十のグラディエーター達。
だがこちらの兵力は誰一人欠ける事も無く、魔人は殲滅された。
眉根をも動かさずにセイルが呟く。
「こんなに連れて来る必要無かったかなぁ」
滾った様子のクレイスがその声に答える。
「ポックの奴が数を言わなかったからなぁ、それにあの驚き様……ハッハッハ! 千は居るのかと思っていた! 奴は臆病だからな!」
早くも談笑を始めた彼等の横で、鴉紋は光の魔人が消えて行くのを目撃する。
「――――っ!」
「コレだぜ兄貴」
ダガーを懐に仕舞いながら、シクスがつまみ上げた石を鴉紋に放り投げて来た。
「これは……」
掌に乗った黒い石を見つめていると、セイルが彼を見上げる。
「魔石だよ。それがアイツらの正体」
「魔石……それで
真っ黒い石の宝石。それが彼等の正体だったという。にわかには信じられなかったが、信じる他が無い。
鴉紋がそれを太陽の光に透かして観察していると、セイルが彼に教える。
「魔力が込められた石なの。本来は魔道具や罠に使ったりするんだけど……それが人型の兵になるなんて聞いた事も無いってフロンスが言ってた」
鴉紋が黒い掌でそれを握り潰すと、霧の様になって魔力の残滓が立ち上っていく。
「お前達が言う様に、確かにこいつらからは意思を感じ無かった。まるで生命体ですらも無い、操られた人形かの様に」
砕けた魔石に視線を落として鴉紋は続ける。
「誰が何の為にこんな事をしてるのかは知らねぇ……だが確かに言えるのは、こいつらは俺達に差向けられた刺客であるって事だ」
険しい顔付きの鴉紋に、クレイスが微笑み掛ける。
「確かにその様ですが……」
そこで鴉紋の腹が音を立てた。するとシクスがニヤケたまま煙草を取り出して咥える。
「まずは腹ごしらえしねぇとだよなぁ」
やや表情を緩ませた鴉紋は彼等に問い掛ける。
「魔人とやらはこんなに弱いのか? ほぼ無抵抗にやられていたみたいだが」
するとシクスとクレイスは顔を見合わせる。
「ん〜まぁ確かに弱いけどな。前は横振りもあったぜ横振りも!」
「ここまでワンパターンというか、まるでやられに来ている程に歯応えが無いのは初めてですね」
――むざむざやられるだけの兵を何故……
「まるで私達をおびき出してるみたい」
セイルの何気無い一言に、鴉紋はクレイスと視線を合わせた。
「――あっ!」
大きな声を出した鴉紋は厳しい顔付きに戻り、セイルに叫び付けていた。
「今すぐテントに戻れセイル!」
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