第164話 爆砕の騎士
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「なんで貴方がここに居るのよ……ピーター」
「う〜んん〜……」
うつ伏せになったリオンの傍らに佇んだ男は、黒のテカテカしたズボンにルビーの様に煌めく外套、見たこともない柄のシャツを着込んで黄色い髪を揺らしている。
「ん〜……?」
リオンの問いに答えずに、渋い顔をして腕を組んだ齢五十にもなる男は、二メートルにもなる巨躰と、剛力を窺わせる肉体を一度くねらせる。
「……小娘二号に」
手に持った鉄柄からは長いチェーンが垂れ落ち、そこに煤の付着した棘付き鉄球が繋がっている。先程リオンを窮地から救った爆発は、そのフレイル型のモーニングスターから巻き起こった事が理解出来る。
「……凶悪面……それと……」
ピーターは品定めする様にして、セイルとシクスへと伏せた瞳を向けながら、唇に指先を添える。
そのままフロンスへと、薄緑の瞳が移る。
「……おじさん。どれも興味無いわ」
「誰がおじさんですって!?」
「いやん。聞かれてた」
煤まみれとなったフロンスが激情するのをセイルが抑える。シクスは溜息をつきながら巨大な男を足元から見上げていった。
「おいおい、サーカス雑技団みてぇな奴が出て来やがったぞ」
「このぉ! 私はまだ37歳だ! やるのかこの野郎ッ!」
「落ち着いてよフロンス!」
何時に無く激昂したフロンスを抑え込みながら、再びに距離の出来た両者は足を止める。
フラついた足取りで立ち上がったリオンが彼の背後に佇むと、ピーターはようやくと経緯を語り始める。
「驚いたわよ……やっとホドの都に辿り着いたと思ったら、民は阿鼻叫喚して逃げ惑ってるわ、天使の子が死んでるわ……アンタなんて殺され掛けてたしね」
「……王都でセンスの無いブティックを経営する貴方が、なんでここに居るのよ?」
「いや〜ん辛辣ッ!」
ピーターの巨大な掌がリオンの肩に落ちると、その衝撃に彼女は地に叩き付けられていた。
「……がはっ!」
「な〜によ小娘。弱り切ってるじゃないの」
「……っ」
リオンの腕を取って引き起こしながら、ピーターは続ける。
「なんでここにってのは私も聞きたい所よ。二十年前に退役したこんなロートルに白羽の矢が立つなんて、誰が予想出来る?」
「白羽の矢?」
不愉快そうに殺意を向けていたリオンの意識がそちらへと移っていく。ピーターは唇を尖らせながら、手先のチェーンを撫で上げた。
「私のチャーミングなブティック『ラブハリケーン』も急いで一時休業にして来たんだから。あぁ、今頃私のファンが嘆いているわ」
「そんな事どうだって良いわ、誰に言われて貴方はここに来たって言うのよ?」
ピーターはフロンス達をジッと見つめ返しながらリオンへと伝えていく。
「ミハイル様よ……よく分からないけど、この老いぼれの力がダルフくんに必要だって言われたの」
「……ミハイル」
「わざわざ時間をずらして伝えに来るなんて、いけずよね。もっと早く言ってくれたら貴方達に同行できたのに」
「……」
「でも……誰でも無い
ピーターは背後に振り返ると、激しく相克する鴉紋とダルフを眺める。
「あれが終夜鴉紋……この世界を悪夢に包んだ張本人か」
そして頬を赤らめて身悶え始めた。
「やだどうしよう……超男前なんですけど」
「……」
「危険な雰囲気とワイルドな目付きが堪んない。ピーターポイント10000点付与だわ」
「ピーター……貴方何しに来たのよ」
「安心なさい小娘。ピーターポイント13000点のダルフくんの方が総合点高いから」
くだらない話しをする二人に、口元から紫煙を燻らせた男が口を挟んで来た。
「長々とくっちゃべってる所悪いがよ。さっさと始末付けて兄貴の所に行かなくちゃいけねぇんだよ」
オッドアイの瞳を滾らせて、シクスが煙草を吐き捨てる。そして怪しげな雰囲気を纏い上げながら、天を赤く染めていく。
鼻の下の髭を撫で付けながら、ピーターは口を尖らせた。
「あら、アナタも良く見たら意外と悪くないじゃない凶悪面。ピーターポイント10点あげるわ」
「いらねぇよ……んな訳の分からねぇポイント」
地が
「なによこれ」
目を見張ったピーターであったが、さして慌てた風も無く、手に握ったモーニングスターを構える。
そして――――
「センス無いわねあんた」
長い鎖の付いた棘付きの鉄球を地に、空に向けてブンブンと振り回し始める。異形の触れた場所から順に爆発が巻き起こり、周囲に熱波を飛び交わせ、豪快にして一網打尽に化け物共を消し去った。
高く爆炎の上がる空の下で、ピーターは微笑む。
「非前衛的よ」
「クソが……っまた厄介な奴が増えちまった!」
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