第129話 魔眼
「――――――――ッっ!!?」
リオン以外、全ての者が次に起こった事態の収拾がつかなかった。ただ目を丸くして放心しながら、笑い声が消していく。
彼等の手元に起こしていた火炎が、結集した特大の焔が、風穴を開けられた様に魔女の眼前から立ち消えたのだ。
「あれ……あれ、あれっ!?」
「魔力が……魔力が練れない!」
彼等の手元に起こしていた赤い魔法陣すらもが消え、諸手を前に突き出したままの百の騎士が露出する。
体感したことの無い不気味な事態に、騎士達は互いを見合わせ、おろおろとするだけである。魔力がまるで消失したかの様に練り上げられないなんて事は、彼等は体験した事が無いのだ。
憤激したニータが一足早く現実に立ち返り、鞭を叩き付けながらリオンに激昂した顔を向ける。
「貴様ぁ何をした魔女ぉぉお!!!」
ニータはダルフに向けて火球を放とうと試みたが、何度振るってみても魔法陣が起こらない。錯乱しながら遮二無二腕を突き出すも、まるで魔力が自らに微塵も備わっていないかの様に何事も起こらない。
「なんでだ……なんで、なんで!! なんでだァァァ!!」
「ニータ様、あれを見てください……ニータ様!」
「ぁぁん!?」
滝の様な冷や汗を垂らして前を見据える騎士達の先に、闇夜に浮かんだ爛々と光る赤い隻眼がある。
誰かが思わず呟いていた。
「ロチ……アート…………」
今再び、確かに魔女の正体を見定めたニータが犬歯を見せながら吠える。
「この家畜めがぁ!! 何を……何をした!!?」
赤い左目を滾らせながら、リオンは右手を頭上に掲げてそこに青く巨大な魔法陣を起こす。
そこにみるみると枝分かれして広がっていく無数の巨大な氷柱が何処までも広がっていく。先端が鋭利な槍の様に研ぎ澄まされている。
「ぁ……ぁあ、あ」
「なんで自分だけ、魔力が……そんなの……」
魔力の練り上げられない騎士達は狼狽し、みるみると広がっていく氷柱の光景を眺めている。夜空に浮かんだ氷の大木を。
やがて、百、いや、千にも届きうる数の氷の槍が完成して、切っ先を彼等に向ける。
ガタガタと震える騎士達を赤い左目で見つめたままに、リオンは感慨も無さそうにその技の名を告げる。
「『
リオンが左目を閉じた。次に頭上からの怒涛の氷柱が地に突き立っていく。
騎士達が陵辱される女の様な悲鳴をあげながら、空から降り注ぐ巨大な氷雨に身を貫かれていく。
リオンはポーカーフェイスのまま顔を斜めにして彼等に助言する。
「もう魔力を練れるわ。ほら、必死に防御魔法でも展開してみたら? じゃないと、死んじゃうわよ?」
騎士がそれぞれに防御魔法を展開するが、生半可なものは直ぐに砕け、主を貫いていく。何度も何度も防御魔法を貼り直さないと追い付かない。槍の豪雨。巨大な氷柱が防御魔法に突き立っていく。
地が抉れ、夜に阿鼻叫喚。
憤怒した様子のニータが炎を纏い、炎の魔人を現して氷雨を叩き落とし始めるが、とても防ぎ切れずに、みるみると体を切り裂かれていく。
騎士達が乱れ、踊り、声を上げるステージで、リオンは空に向かって笑い、クルリと回る。
「――アハハハはっ」
――魔眼ドグラマ
彼女の瞳には何も映っていない。けれどその魔眼が視たものは魔力を打ち消す。
「ちくしょう、この魔女が! この……こんな仕打ちッ! よくも!」
氷の嵐が止み、身を切り裂かれたニータの足元に広がるは、巨大な氷柱に貫かれた騎士達の光景。既に半数以上の者が串刺しになってしまっている。
「貴様の大切なものだけでも、八つ裂きにしてくれるッ!!」
十字架に張り付けにされたダルフに、ニータの体に纏う炎の化身が手を伸ばした。
するとリオンは次に、右の瞳を押し開いてニータを射貫いていた。
「
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