第十五章 ガキの戯言で何を救えるというのか
第69話 花の化け物
第十五章 ガキの戯言で何を救えるというのか
ダルフはその雷撃の翼で閃光の様に駆けながら、その霹靂で騎士を貫いていった。
「……ぁ…………あ…………」
どういう訳なのか、騎士は誰一人として抵抗もせずに、涙を流しながら腕を下げ、ダルフが自分の元に飛来してくるのを静かに待ちわびていた。それどころか、手を止めて彼の翼に向けて歩んでくる者まで居る。
雷に打たれ、白煙を立ち上らせて次々に倒れていく騎士。そうしていつしか、見覚えのあるランスの男、リットーの頭上に舞い上がったダルフ。
「ああ……ダルフくん」
「ッッ?」
リットーは大粒の涙を頬に伝わせながら、待っていたと言わんばかりに、目前で舞い上がったダルフに向けて大手を開き、ランスもアーモンド型の盾も落として微笑んだ。
ダルフの翼が白き発光と共にリットーを包み込む。
「リットーさん……?」
「…………あ」
リットーは朗らかな表情をして大手を広げたまま、煙を上げて全身を痺れさせ、ダルフにこう続けたのだった。
「あ……りが……とう」
「リットーさん……っ!」
リットーはそのままうつ伏せになって倒れた。
「てんめぇらあああッッ!! なんだその体たらくはっ!!」
上空で怒りに震えたルイリが高度を落として来る。
「『生命の芽吹き』」
ルイリが指を鳴らしてダルフに葬られた騎士の蘇生を試みるが、彼等は誰一人として蘇らない。
「死んで……いないのか? 誰一人として」
ルイリの『生命の芽吹き』は、対象を治癒する魔法とは性質が異なる。既に死んだ者を、366秒という僅かな時間制限の最中でのみ、元の通りに蘇生する事が出来るのだ。故に死んでいない者には効力が及ばない。加えて明記すると、彼女のこの能力は、その性質上、
「馬鹿なッ! 手心を加えたというのか、何故だ!」
「これ以上誰も殺させない!」
「ガキが……がぁあきぃい!! てめぇの様な輩には何物も手に入らないという事を教えてやる」
辺りの巨大な白百合が姿を消して、花弁にまとわりついていた死骸が地に落ちる。
「『生命の芽吹き』」
そうしてルイリは、指を鳴らし、白百合の大輪で死んだ騎士を蘇生する。死んだ民はそのままに、倒れていた騎士達が光に包まれて立ち尽くした。
「やれ騎士達よ。まだ悪魔の徒は半数も生き残っている。その正義の刃で切り裂いて見せろ」
「う……ぅぅ……」
「どうした……?」
「ぅううう!」
「やれって言ってんだろう!!」
「……ぅ」
騎士は震駭しながら、得物を握り込んだ手を震わせて、誰一人としてその場を動こうとしなかった。
「……てん………………めぇら! さっさとやらねぇか! 殺されて騎士の称号も剥奪されてぇのか!」
峻烈過ぎる態度が目に余り、ダルフが割って入る。
「もうやめろ! お前の行いに賛同する者など誰も居ないんだ! 貴様は押し付けた恐怖で、無理矢理に部下を操っているだけだ!」
「黙れ! さっさと立て騎士共!」
「ぅう……あぁぁあ!!」
ルイリの渇でようやく騎士は不確かな面を挙げて、民を殺すために剣を握った。
「この野郎共が……腰抜け野郎共ガッ!」
気に入らない事があるのか、ルイリは眉間に寄せた皺を更に深くしながら、苛烈な視線をしたまま地に降りてきた。額に立った青筋が、彼女の噛みしめるこめかみと共に盛り上がる。
「全員後で仕置きだ…………それよりおい、てめぇだよ! 何なんだその天使を気取った翼もどきは! マニエルからは腕力があるだけの木偶の坊としか聞いてねぇぞクソが!」
相当に激昂している様子のルイリは、瞬きする事も忘れ、目を血走らせたまま、ダルフに向けて歩いてきた。
すると彼女に向けて、自分でも制御の効かぬ疾風に乗った少年が、正に風のごとく現れて、その両手の双剣を振り上げた。
「グレオかっ!?」
「咲け!」
しかしその少年。グレオの進行は、ルイリの前の中空に現れた白百合に阻まれた。
「ゥゥウウウウッ!!」
グレオはその花弁にブスブスと体が突き刺さっていくのにも構わず、そのまま踏み出していく。彼を阻む花弁の隙間から、野獣の様な激しい瞳をルイリに剥いていた。
「貧民あがりのクソガキが、一端に戦士の目をしやがって」
ルイリの右腕に白百合がまとわりついていき、豪腕となった。
「安っぽい正義感に捕らわれたてめぇらの愚かさを教えてやる。そうしてすぐに、その結末も!」
ルイリが白百合の豪腕をグレオに向けて突き出す。その剛力は中空の白百合を砕き、グレオの胸を殴り飛ばす。
「……ッッぅあああ!!」
「グレオ!」
殴り飛ばされたグレオが、雪原に道筋を作ってその身を横たえる。
「てめぇらが決起しようが、結末は同じ――――死だ。幾度も殺し、幾度も蘇らせて、地獄を見せてやる。殺してくれと懇願するまで」
ルイリの右腕にまとわりついた百合が更にその数を増して蠢きながら、彼女の体全体を包んでいき、辛うじて人のフォルムを残しただけの、巨大な花の集合体となった。太く巨大な四肢が伸び、肉厚な茶色の翼も包み込んで、中心は鋼鉄の百合の薮の様になって表情だけを覗かせている。
「『
百合の蠢く巨人になったルイリが。その醜い体をダルフに差し向けた。
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