第61話 救済
グレオとバギットが冷たい雪の上で目覚めると、すぐ頭上に、しゃがみこんで掌からの白い光を放射する見知らぬ少女が居て驚いた。
「うわわ、なんだ?」飛び起きたグレオが自らの体を確かめる「傷が治ってる」
バギットも同じ様な反応をして目を丸くした。
「あなた達も、面白い心の形をしているのね」
不思議な少女はそれだけ言うと、あくびをしてダルフの元へと戻っていった。
ダルフと民が全ての事情を話すと、グレオは途端に怒ってダルフに詰め寄った。
「腕を切り落としたですって? あなたがいくら『不死』だからと言って……それは愚策でした。あなたが戦えなくなったら、一体この数の民を誰が守れると言うのです」
眉を吊り上げたグレオに言葉を返したのは、ダルフでは無くバギットだった。
「ちょ、『不死』? ってなんだそりゃ、旦那が死なねぇってのかい? 意味がわかんねぇよ、そんなのありかい?」
バギットの疑問を、民達も同じ様に感じたのか、一斉にダルフの方を向いていたので、嘆息したダルフが説明を始めた。
「俺の能力は唯一で前例の無い『不死』というものらしい。だが無敵という訳じゃない。痛みは同じ様に感じるし、ダメージに応じた時間をかけて再生する……らしい」
「らしいって」困った表情を見せるバギット。
「死んでいる間の記憶は無いんだ。マニエル様から聞いた話しだ。それとマニエル様からは誰にも言うなと、事情はわからないが、念を押されていた。だから君達も内密にしてくれると……助かる」
にわかに信じられず、釈然としない民達をそのままに、グレオが続けて問い掛けた。
「それと、その女性は……まさか、ウィレムの森の魔女?」
リオンはダルフの横で無表情のまま立って、さぁ、と短く答えた。
扱いに困りながらも、ダルフが補足する。
「リオンは、俺達の旅路に手を貸してくれるらしいんだ」
「私が手を貸すのはダルフだけよ」
「うぅ……」
頭をかきむしるダルフ。彼を見上げる無表情はピクリとも動かず、愛想笑いもしない。
「魔女だかなんだも構わねぇや、今しがた俺達を助けてくれたんだ! だから礼を言うぜグレオ!」
「……そうですねバギットさん」
「「ありがとう」」
リオンは眉根一つ動かさずにダルフの背に隠れた。
「そうだリオン、気になっていたんだが」
ダルフがそう言うと、リオンは即座に顔を出して、「なに?」と問い掛ける。表情は乏しいが、何処か嬉しそうにも見える。
「ダルフさんにだけ、明らかに態度が違いますね」
「お前はガキだからなぁ……な~に、人ってのは本気で惚れた相手にゃあ、特別な態度になるもんだ」
「そんなものでしょうか?」
肩に回された腕を外しながら、グレオが怪訝な表情を向けると、背後からエルの声が聞こえてくる。
「二人とも、無事で良かった」
「姉さん」
「エ、エ、エ、エエエルちゃん!!」
「良かった、一時はどうなるかと思って心配したのよ? 死んじゃうのかと思った」
「エルちゃんを置いて俺が死ぬ訳ないだろ! アハ、アハハハハハハ!!」
ぎこちないバギットの笑い方を見て、グレオは呆れた表情になって息を吐いた。
ダルフはリオンを見下ろしながら問い掛ける。リオンは無表情だが、フリフリと亜麻色のローブの裾を揺らして言葉を待っている。
「君はどうしてこんな所に?」
「別に、なんと無く。何処にだっていけるけど、冬は寒いし、食べ物も無いから、ここに居る」
「寒いし食べ物も無いから……って、ここも同じだろう」
「ここには魔力に閉ざされた空間がある。そこは冬でも暖かく、緑が溢れて食べ物も沢山ある」
願っても無い言葉に、ダルフが目を見開いてリオンの肩に手を置いた。
「何処にあるんだ! もう限界なんだ、民達を休息させてやりたいんだ!」
「……いいわ、ついてきて。魔力の空間はきっと私にしか見つけられないから」
「やった……ありがとう、ありがとうリオン」
「いいよ、ダルフ」
「みんな、聞いてくれ! 助かるぞ!」
民とを連れたダルフは、リオンに続いて、魔力に閉ざされた空間へと向かった。
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