第13話食品の衛生事情(レシピ有)

●お知らせ

『ダン町タウル』の本編に当たるお話を連載開始しました。

よろしかったら、こちらも合わせてお楽しみいただけたら幸いです。

『トワの広場でゆで小豆を売る~自宅ごと異世界に飛ばされた八穂のほのぼの生活』

https://kakuyomu.jp/works/16816927861596727979

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「うーん 新鮮で安全な卵が欲しい」

八穂は、ガックリと、肩を落とした。


この世界で食用の鳥と言えば、ポピュラーなのがドードー鳥である。

家畜として飼育されていて、主に食肉として流通している。また、ドードー鳥の卵も、手軽に食べられる栄養食として人気が高い。


 他に、魔獣のコカトリスなども、高級食肉、卵として珍重されているが、これは、なかなか庶民の口に入ることはなかった。


 なので、八穂が欲しいと言っているのは、ドードー鳥の卵である。

ただ、この世界には冷蔵技術が発達しておらず、日本ほど衛生意識が高くないため、生食するのは難しかった。


 八穂は、マヨネーズが作りたかったのだ。卵と、柑橘酢、リーブ油と塩。材料は手に入るのだが、卵の安全性だけが手に入らなかった。


 新鮮な卵を手に入れるには、ドードー鳥を飼育している牧場へ、直接買いに行けばいい。まとめ買いをして、神様ポーチに入れておけば新鮮さは保たれるだろう。


でも、鳥が産んだそのままでは、サルモネラ菌などがついている可能性があるのだ。

 

 日本の養鶏場ではどうしているかというと、微酸性びさんせい次亜塩素酸水じあえんそさんすいで洗浄することで、消毒しているらしい。

この世界の牧場では、消毒していない可能性の方が高いだろう。


 食器や生板などの消毒なら、一緒に転移してきた台所用漂白剤が使えるのだが、残念ながら食品には使えない。


と、いうことで、この世界では、生卵を使うことは、あきらめざるを得なかった。

 しかたがないので、卵を使わないで作れる、ドレッシングを充実させようと決心した。


 細かいことを言ってしまえば、この世界、化学肥料がないため、生野菜を食べるのも、安全とは言えないのだ。


 ただ、鬼ホタテの殻を焼いて粉末にした洗剤「ホタテ粉」があった。

帆立の殻を使った野菜用の天然洗浄剤は、日本にもあるので、このホタテ粉を溶かした水に浸した後、念入りに水洗いすることで、安全に生野菜を食べることができるようになった。


 世界が変われば常識も変わる。郷に入れば郷に従えである。


 八穂はゆで上がったアツアツのじゃがいもを、水さらししたスライス玉ねぎをいれたボウルに、あけて潰した。


少しゴロゴロと小さな固まりが残るくらい細かくして、玉ねぎと混ざったところに、バターを加えて混ぜた。

 バターはじゃがいもの熱ですぐに溶けて、良い香りを漂わせた。


じゃがいもを冷ましている間に、キュウリを刻み、塩を少し振って水分を出す

水分を絞ったキュウリを、粗熱がとれたじゃがいもと合わせ、味をみて,

砂糖と塩で調えれば、できあがりだ。


 マヨネーズなし、たっぷりキュウリのポテトサラダ。レタスを敷いた器に盛りつけ、赤いトマトを飾った。


 今日のランチは、このポテトサラダと、赤牛のハム、野菜スープ。

混合粉十パーセント入りのテーブルロールは、冒険者仕様で一人五個。

パンは細く伸ばした生地を、一結びして、丸く成形してあった。


 実は今回、いつも使っているベリーの天然酵母に加えて、日本から一緒に転移してきた、インスタント・ドライ・イーストを一パーセントだけ入れてみていた。

 

 自作の天然酵母では、噛み応えのある、味のあるパンは焼けるのだが、口触りの良いふわっとしたパンは、どうしても焼けなかった。


 酵母の性質上しかたのないことなのだけれど、試しに発酵力の高いイーストを加えてみたところ、かなり柔らかく焼き上がった。


 その上、発酵時間が十二時間から、五時間に短縮されたのだから、ありがたい。


「ただ、このパン、どうやって焼くのかを聞かれると、困るんだけど」


 八穂は頭を振りながら、食器やカトラリーの準備をして、お昼の開店に備えた。


「ヤホちゃん、腹減った」

『ソールの剣』の弓師ラングがドアを叩いた。


「ごめん、ごめん、今開けるね」

八穂があわてて入口の鍵を開けると、少し疲れたようなラングが入って来た。


「こんな時間に珍しいね、他のみんなは?」

「トルティンとミーニャは今来る、依頼を終わらせて帰って来たところなんだ」

「そうだったのね、お疲れ様。果実水どうぞ」


 八穂がガラスのピッチャーに入った果実水をテーブルに置くと、ラングは、コップになみなみと注ぎ、一気に喉に流し込んだ。


「うう 生き返る」

「依頼、大変だったの?」


「Bランクパーティーへの昇格試験だったんだ」

「さすがに、大変だっわ」


入って来たリーダーの剣士、トルティンが、ドスンと椅子に座ると、魔術師のミーニャも、疲れ切ったようにため息をついた。


「おつかれさま、まずは喉を潤して、休んでて。ランチ持ってくるね」


八穂がカウンターの奥へ消えると、三人ともフウと息を吐いて、テーブルに突っ伏した。


「あらら、ずいぶん疲れてるのね」

ランチを乗せたトレイを運んで来た八穂が、三人の姿を見て驚いた。


「そうなのよ、南のガヤの森で、三節だから、二一日間過ごして、指定の魔獣を狩るってやつ」

「なるほど、厳しそうね」


「ガヤの森の魔獣の最強は、Dランク魔獣のエビルボアなんだが、数が多くてね。夜昼いつでも襲ってくるから気が抜けなくて」

トレイを受け取ったトルティンが、嬉しそうに野菜スープを口元に運んだ。


「ランクが上がると、厳しい環境にも耐えなくてはならないということよね。あら、このパン、柔らかい。美味しい」

ミーニャは、千切ったパンを飲み込んだ。


「良かった、気に入ってもらえて、で、結果はもちろん?」

「当然、依頼達成で、メンバー全員昇格決定だよ」


「それはすごい、おめでとう! お祝いしなくちゃ」


 八穂は、ポテトサラダの器を抱えて、無心に掻き込んでいるラングを、横目で見ながら、空になっているコップに、果実水を継ぎ足すのだった。


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たっぷりキュウリのポテトサラダのレシピ


●写真:

https://kakuyomu.jp/users/kukiha/news/16817330647538971957


(2~3人分)

きゅうり 1本

トマト 1/2個

じゃがいも 3個

玉ねぎ 1/4個

無塩バター 20g

砂糖 小さじ1/2杯

塩 ふたつまみ

コショウ 少々

レタス 1枚


1 きゅうりは薄い輪切りにして、分量外の塩ひとつまみを振り水分を出しておきます。

2 玉ねぎは薄くスライスして水さらしし、辛みを抜きます。

3 じゃがいもは皮をむき、適当な大きさに切って水さらしして鍋に入れ、水から柔らかくなるまで茹でます。

4 ボウルに良く水を絞った玉ねぎを入れ、お湯を切った熱いじゃがいもを入れ、バターと塩も入れて、じゃがいもを潰すようにして混ぜます。

5 じゃがいもの粗熱がとれたら、よく水分を絞ったきゅうりを入れて、よく混ぜます。

6器にレタスを敷き、ポテトサラダを盛り付け、トマトを飾ります。

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