第2話ドードー鳥のカリカリ唐揚げ(レシピ有)

「こんばんは、八穂やほ、何かある?」

午後十時の閉店直前。八穂がそろそろ片付けを始めようとしているところに、店のドアが開いた。


 八穂と同じ黒髪の男が顔を出した。背は百八十センチくらいか、細いけれどしなやかな感じの、いわゆる細マッチョ体型だ。


 草色のシャツを着て、黒い革の胸当て 革のスボン 幅広いベルトに、革のブーツという冒険者スタイル。 腰にナイフと長剣を下げていた。



十矢とうや久しぶり」

「ちょっと遠くまで行ってたからな。みやげだ」

十矢は、小さなウエストポーチから、巨大な肉の塊を出して、カウンターに乗せた。


 いわゆるマジックバッグというアイテムだ。この世界に飛ばされた時、神様特典とやらで、八穂にも与えられている。


 十矢も、時期は違うが、八穂と同じ世界、同じ時代から飛ばされて来た「神隠し」仲間だ。

以前、彼女が、地方都市トワの広場で屋台を営んでいた時、ビンガ豆のスープ(ゆで小豆)を、涙を流しながら三杯もお代わりした。


 偶然、故郷の食べ物を見つけて、夢中になって食べたらしい。

後になっって、甘い物が苦手だったと知って、八穂は呆れたものだったが、やはり、元の世界の味は忘れられるものではない。


「すごいお肉。何の肉かな、牛?」

八穂が尋ねると、十矢は、ニヤリと笑った。

「ミノタウロス」

「ひえー!!」

八穂が悲鳴を上げると、十矢はクスクス笑った。


「依頼で行った先で見かけたから狩ってきた。良いとこだけ取って、あとは肉屋へ売ってきた」

彼は、この界隈でも珍しいAランク冒険者なのだ。

転移の時に貰ったチートと、相棒の使役獣、大鷲のイツの助けもあって、ミノタウロス程度の魔獣ならソロでも狩れる。


 実は、八穂にも使役獣のリクがいる。大型の猫で、イザと言う時は神獣ドウンとなって八穂を護ってくれる。十矢のイツも、ガルラという神獣だった。

とりあえず、これは、二人の秘密ということになっている。


「煮込んでシチューにでもしようかな」

八穂が、肉の塊を眺めながらつぶやくと、十矢は嬉しそうに言った。

「それじゃ、明日の夕飯に来るかな」


「明日は無理、無理。最低でも三日後、いえ、五日後ね」

八穂はあわてて手を振る。


「そんなにかかるのか?」

「うん、このままじゃ無理だけど、大きく切り分けて煮込むから、ホロホロになるまで時間がかかるのよ。その代わり、すっごーく美味しいはず」

八穂は得意そうに腕組みした。


「それじゃ、五日後を楽しみにしとくか。それで、今夜の分。何か食べさせてくれ」

「わかった、少し待ってて。棚のビールかワイン。好きに飲んでていいわよ」


 八穂の店は、夕食時だけ、ビールかワインの小瓶を一人一本だけ飲むことができる。

欲しい客は、自分でカウンター前に置かれた瓶を取って飲む。彼女一人だけでの経営なので、手が足りないのだ。

それに、際限なく飲まれて、酔っ払って暴れられても困るから。そう決めた。


 ほとんどの客は気心の知れた馴染みなので、あまり無理を言う人もいない。

ごくたまに、初見の客が、もっと飲ませろと言いがかりをつけて来る場合もあるが、そういう時は大抵、居合わせた馴染み客がいさめてくれる。


 十矢が、ナッツをつまみに手酌でビールを飲んでいると、カウンターの向こうから四角いお盆が差し出された。

「唐揚げ定食一丁!」

八穂は笑って、湯飲みに緑茶を注いで添えた。


 お盆の上には、白いご飯と、大根の味噌汁、千切りキャベツと、色よく揚がった唐揚げ、そして、きゅうりの浅漬けがあった。


「唐揚げはドードー鳥の肉よ、少し固いけど、ヨーグルトに漬けておいたから食べやすいと思う」

八穂が説明した。


 ドードー鳥は、元の世界では絶滅してしまったが、この世界では珍しくもない鳥で、家畜として繁殖されている。


地面を走る飛べない鳥で、動きもあまり速くないため、管理がしやすいことから重宝されている。


 ドードー鳥以外は、どれもこれも、懐かしい故郷の味だ。

十矢は、ほうっと息を吐いて、手を合わせた。


「いただきます」

「召し上がれ」


 これも、二人の秘密なのだが、彼女は自宅ごと、この世界に飛ばされてきたため、その時ストックしていた食材は、腐ることなく無限に使えるというチート持ちだった。これも神様特典。ありがたく享受していた。


 同郷の十矢だけが店にいる時は、それらチート食材を使った特別メニューになることが多い。

十矢も、それを見越して、わざと閉店間際に食べに来るのだった。


「うまいな、この唐揚げ、カリッとしてて香ばしい」

十矢は嬉しそうに大ぶりな一切れを飲み込んだ。

「でしょ? 衣にみじん切りしたじゃがいもを使ってるのよ」

「へぇ それでカリカリするのか」


「じゃがいもは水さらししないのがコツ。固くなったパンをすりおろしたパン粉と合わせてるから、正確な意味では唐揚げじゃないかもね」

「なる、味付けもいいね。カレー?」

「そうそう、ブレンドスパイスと塩。懐かしい味でしょ」


「うん、そういやカレーライス、食べたいな。そのうち頼むよ」

十矢は言って、傍らにあったナッツの皿を、使役獣のイツに差し出した。

イツは、グルッと小さく鳴いて、鋭いくちばしでつまんで、飲み込んだ。



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ドードー鳥のカリカリ唐揚げのレシピ

(スパイシーなカリカリチキン)

●写真:https://kakuyomu.jp/users/kukiha/news/16817139554772207125


(2人分)

ドードー鳥の肉 約300g

※または、シャモ肉、鳥もも肉など


●漬けだれ

プレーンヨーグルト 大さじ1・5杯

すりおろしニンニク 小さじ1杯

すりおろししょうが 小さじ1杯

塩 小さじ半分

クミン・パウダー 小さじ半分

ターメリック・パウダー 小さじ半分

カルダモン・パウダー 小さじ4分の1杯

コリアンダー・パウダー 小さじ4分の1杯

レッドペットパー 小さじ3分の1杯


※スパイスはカレー粉小さじ1で代用可


●衣

じゃがいも 中2個

パン粉 大さじ3杯

片栗粉 大さじ2杯


1 じゃがいもはみじん切りして、キッチンペーパー等で水分をよく拭き取ります。

2 肉は、小振りな一口大に切ります。

3 ボウルに漬けだれの材料を合わせ、肉を入れて揉み込み、冷蔵庫で約30分なじませます。

4 ボウルに衣の材料を合わせ、手で押しつけるようにして、肉のまわり全体に衣をまぶします。

5 170度から18〇度の揚げ油に肉を入れて、色よく揚げます。


※じゃがいもが焦げやすいので、油温を上げすぎないように注意してください。

※やや薄味なので、お好みで、ケチャップ、からし、タルタルソースなどを添えてください。

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