第51話 晩餐会の準備②
「目的地を決めていない、と思っているのなら……それは大きな間違いね」
ウルは開口一番そう言い放った。はっきり言って、それを聞いて私はドキッとした。
「決めていない――訳ではない? だとすれば、何処へ向かうのか直ぐに答えられる、ということになるのだろうけれど?」
「まあ、そうなるかしら。イズンちゃん、見てくれは良いんだから、もうちょっとおしゃれした方が良いと思うのよ」
「いや、だからどうしてそんな結論に……」
別に私は晩餐会に参加するだけで良いと思うのだがな。
服装なんて、気にすることでもないだろうに。
それとも、
「気にしないといけない理由でもあるのかな?」
「あるわよ、思いっきり。……寧ろ、そんなものがないとでも思っていたのかしら?」
ウルに一刀両断されてしまうと、これからどうやって話を進めていくかというプランが崩れてしまうので、それはそれで困ってしまうな。
「晩餐会に参加するために、綺麗な服を仕立てなければならない、と」
「ええ、だから何度も言っているじゃない。本当にやりたくない、ということは伝わってくるけれどね」
伝わってくるのならば、こちらの意思も尊重してほしいものだけれど、そうもいかないのだろうな。
「それを冒険者である私達がしなければならない理由は?」
「目立ちたくないでしょう?」
何だって?
行き当たりばったりかと思いきや、きちんと理由を用意していたのか?
いや、それならそれで問題ないのだが……。
「目立ちたくない、というと語弊があるけれど、つまりは晩餐会に出るならばフォーマルな格好でなければならない――というのは常識と言っても過言じゃない。ならば、どうすれば良いか。答えは簡単じゃないかしら?」
「相手に合わせると言うよりは、周りに溶け込むために……か。成る程、言い得て妙だ」
「分かってくれるのならば、有難いことね。これできちんとこちらの方向に話を持って行ければ……」
「復讐をするならば、ターゲットに悪目立ちしない方が良い。確かに、それはその通りだ。それも考えてのこの意見だったのか? だったら、大いにありだな」
「いや、別に復讐しやすいから、っていう理由ではないのだけれど……」
ウルが何か言っているが、まあ、別にとやかく言うこともなかろう。
とにかく今は、晩餐会に必要な服を仕立てなければならないのだから。
◇◇◇
概ね予想はしていたが、晩餐会に参加する人間は大抵が金持ちだ。
それは分かっていた。分かっていたが――。
「……こんなするなんて聞いていないぞ、ウル」
「いやあ、ごめんなさいねえ。私もまさかこんな高値だとは思いもしなくって……」
大抵宿屋に泊まる料金が金貨一枚――それが概ねの相場となるが、晩餐会に必要な服を仕立てると金貨十枚は最低でもかかると言われてしまった。
だから、私は晩餐会で着る服なんて用意しなくて良いと、あれほど言った。
「まあまあ、良いじゃないのイズンちゃん。今回は私のポケットマネーから出したんだから、ね。それで許してもらえないかしら?」
「……まあ、許すか許さないかと言われると、許すしかないよね」
今回は、ウルのポケットマネーから支払ってくれると言ってくれたので――まあ、言い出しっぺだからそれぐらいはしてくれないと困るのだが――事なきを得た。
もしこれで自分のお金から支払うなんてことになってしまったならば、今後の旅に影響を与えることは間違いないだろう。
「で、これからどうするつもり?」
因みに服は簡単に手に入る訳ではない――明日の晩餐会に間に合うように、服を仕立ててくれるのだとか。
それならば、こちらもゆっくりと待っていれば良い。
本当はもう少し情報収集をしたいところではあるが、この街には何もない、
だから、少しのんびり街歩きをしてみよう――というウルの提案に、致し方なく同意せざるを得ないのだった。
「……これからどうする?」
「ちょっと街の外に出てみないかしら? ほら、あなたも言った通り、この街には何もないから……」
「珍しく、ウルの言っていることに同意するよ。ところで、街の外には何が?」
「遺跡があるらしいわよ?」
「遺跡……ねえ。遺跡というのは、あんまり好きじゃないのよね。古臭いというか、何というか……」
「あら、私は好きですよ、イズン」
言ったのはソフィアだった。
そりゃあ、あんたは好きかもしれないがね……。
「誰もが遺跡を好き好んでいる訳ではないんだよ。分かるか?」
「あら、イズンちゃん。それぐらいは私だって分かっているわよ?」
分かっていたのか。
だったら、どうして遺跡なんかに行こうと言ったんだ?
「きっとイズンちゃんも興味があると思ったのだけれど。……それは、伝説の勇者にゆかりのある遺跡だからね」
魔剣士と終わりゆく世界 巫夏希 @natsuki_miko
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