第22話
(※ローマン視点)
このままクリスタの言いなりになんて、なるつもりはない。
せっかくマリーの言いなりになっていたことから解放されたのに、今度はクリスタの奴隷になるなんて、そんなの御免だった。
気付けば、握っていた拳に、いつの間にか力を込めていた。
「私のことを、殺したい?」
クリスタが笑みを浮かべながら、僕に聞いてきた。
心を読まれたような気がして焦った。
それに、彼女の浮かべた笑みを見て、恐怖を感じた。
「さっきも言ったけれど、私は自分のことさえも、どうでもいいと思っているの。だからべつに、殺してもいいけれど、その場合は、あの写真がお義父様に送られることになるわ」
「……な、なんだと!?」
「私が生きていても、あなたは苦しむし、私を殺しても、苦しみ続けることになるの。あの写真は今、貸金庫に保管されているわ。そして、私の死が発覚すれば、お義父様に送られるようになっているの。お金を渡せば、簡単に言うことを聞いてくれたわ」
クリスタが歪んだ笑みを浮かべた。
つまり、クリスタを殺しても、状況は何も好転しないというわけか……。
いや、むしろ、僕の破滅が確定するわけだから、さらに悪くなるともいえる。
「……頼む。僕が悪かった。許してくれ」
僕は彼女に頭を下げた。
このままでは、僕は彼女の奴隷として、生きていかなければならない。
「あぁ……、いいわ、その顔。あなたがそうやって苦しむ顔が見たかったの。まあ、当然、許すつもりはないわ」
「そんな……」
「いやなら、考え方を変えればいいのよ。私は、自分の考え方を変えた。そうしたら、こんなにも人生が楽しくなった! あなたがこんな状況になっているのは、ずっと同じ考えでいるからよ。浮気のことがバレたくない。バレて、家の者から制裁を加えられ、人生が終わることを、あなたはいつまでも恐れている。だから、私にこうやって脅されているのよ。別にばれてもいいと思えるよになれば、この状況も変わるけれど、あなたにそんな勇気はないようね」
彼女は笑っていた。
本当に、楽しそうに……。
僕が苦しんでいる姿を見て笑うなんて、今までの彼女からは全く想像できなかった。
彼女はもう、僕の知っているクリスタではない……。
*
私とローマンの立場が逆転してから、一か月が過ぎた。
私たちは並んで街を歩いている。
現在は、買い物を終えて、家に帰っているところだった。
周りから見れば、私たちは仲の良い夫婦に見えるだろう。
でも、本当はそうではないことを、誰も知らない。
私たち以外は……。
家に到着した。
中に入ると、ローマンは持っていた荷物を降ろした。
私はリビングにあるソファに座ってくつろぎ始めた。
「ローマン、部屋の埃が気になるわ。掃除しておいて」
「……え? 埃なんてどこにも……。それに、掃除は昨日したばかり──」
私はローマンの頬を叩いた。
「掃除をしてと、私は言ったのよ」
「……はい、わかりました」
彼は目に涙を浮かべながら、返事をした。
そして、掃除を始めた。
私はその姿を見ながら、笑みを浮かべていた。
私に隠れて幼馴染と会っているみたいですが、私があなたに警告したことを、もうお忘れになったのですか? 下柳 @szmr
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