第七章 悪四郎
第77話 景義、作事奉行となること
第一部 戦 乱 編
第六章 悪 四 郎
一
刻は、しばし遡る――
治承四年、
敗走のなかで死んだと思われていた景義が、ひょっこり生きて鎌倉に戻ってきた時、頼朝はおおいに喜んだ。
早速、宿所に迎え入れ、互いの無事を祝いあって、
ふたりは鎌倉という新しい都の造営について話しあった。
まずは、頼朝の御所を建造せねばならない。
「ただの屋敷では駄目だぞ、屋敷では。都びとに馬鹿にされぬような、格式高い
頼朝の言葉を聞いて、さればこそと、景義の目が輝いた。
「そのような作事こそ、われらが鎌倉衆の得意とするところ。ぜひわれらをお使いください。鎌倉衆は、『松田
先の大戦によって多少、工匠が減っておりますが、この度の作事の話を聞けば、離散した者たちも戻ってくるでしょう。みな喜んで腕をふるうでしょう」
「私も『松田御亭』の噂は聞き及んでいる。素晴らしい寝殿造りと聞いたが……」
「左様。かの御亭はそもそも、佐殿の兄君、
要は、都風の
「それは参考になるな。次の出征の折にはぜひ足を運んで、実際にこの目で確かめてみたい」
「それはぜひにも。……松田御亭も素晴らしい造りですが、この鎌倉にはそれ以上の御亭を用意してみせましょう」
「楽しみになってきた」
少年のように顔を上気させた頼朝に、景義はうなずきかけた。
「お任せを。はるか
「実は、言いにくいことではあるが……」
と、頼朝は、すこし視線をそらし気味にした。「今の幕府にはほとんど財力がない。鎌倉の作事の一切を、そなたら鎌倉一族に任せたいと思っている。ついてはかねてからの約束どおり、そなたを鎌倉一族の総領と
作事の一切を請け負うとなれば、莫大な私財と労力をつぎ込むことになるが、幕府内に自分の地位を確立する、千載一遇の好機でもある。
迷いなく、景義は決断した。
「それはまさしく、わが望むところでござります」
「よろしく頼むぞ」
「ははっ」
こうして景義の目の前に、鎌倉
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