第73話 景義、景親を護送すること
三
広大な荘園である大庭
罪人は白い
なによりもの恥辱は、烏帽子を与えられず、
道の両脇には大庭の領民たちが群れ集い、この行列を複雑な思いで眺めていた。
見るにいたたまれず、両手で目を覆う者、扇で顔を隠し、扇の骨のあいだからおそるおそるのぞく者もいる。
「あれが大庭三郎さまじゃ」
「あわれな……」
「三郎さまほどのつわものでも、いざ斬首となれば、あれほどに衰えるものか……」
ふかく澄みわたった秋晴れの、強い透明な光のもとで、罪人の眼窩はいっそうに落ちくぼみ、頬はこけて見えた。
二十年来の主人の変わり果てた姿に、人々は身もふるえる思いだった。
「そのうしろが、お子の陽春丸さまじゃ」
「まだ
「そのうしろは?」
「河村の三郎さまだそうじゃ」
口元を隠し、人々はささやきあった。
罪人の後から、黒ずんだ
「平太さまじゃ……」
なにか恐ろしい決意を秘めたような厳しい顔をして、唇を力強くひき結んだまま、表情をゆるめない――景義の顔を見た領民たちも、暗い予感にとらわれて、おのずと緊張し、生唾を呑みこみ、ただただ行列を見送るばかりであった。
馬の背に揺られながら、景親は、故郷の景色をその目にじっくりと焼きつけた。
途中、遠目ながら、冠雪をいただいた富士の山容も見えた。
あちらの辻、こちらの小川、あちらの寺社、こちらの草原、胸には様々な想い出がよぎり、浮んでは消えてゆく。
そのうちに、大庭館に到着した。
かつて
翌、二十六日。
刑場は江ノ島にほど近い、
預かり人の上総広常とその郎党たちが取り囲むなか、親子はそれぞれ、
準備を整えた景義が、重々しく杖をつきながら現われると、覚悟の
深まりゆく季節が、木々の葉を、炎のように染めあげていた。
吹き燃えるような炎のなかで、鷺が純白の翼を、
(美しい……)
景親は、息子に声をかけた。
「先にゆきなさい。私が見守っている」
武人として厳しく
「父上、どうぞお気遣いなされませぬよう。親より先に子が死ぬは、一の不孝でございます。陽春丸は、父上の最期をしかとお見届けいたしますれば、どうぞご安心くださいませ」
普段教えこまれている通りにそう言った、幼らしい愚直さ。
……その言葉を聞いた父親の心には驚きがあり、同時に、そこいも知れぬ哀しみがあった。
景親は、幸福とも不幸とも分ちがたい、あふれんばかりの心情で、愛息の瞳をまっすぐに見つめ、声をふるわせた。
「和殿のような立派なつわものと、共に逝けること、この景親、最上のしあわせに思う」
父のその一言に、陽春丸は無上の喜びを感じ、やわらかな頬を上気させた。
やがて、最期の時が来た――
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