第33話 景廉、戦場に駆けつけること
「盛綱、
「ハッ」
「もはやこの期に及んで、私の護衛は不要。景廉とともに、すぐさま山木館へ加勢に駆けつけよ」
「ハハッ」
景廉は翼を得た虎のごとく、いの一番に門口を飛び出して行った。
かれらは馬を使わず、蛭島のぬかるみを徒歩で近道し、狩野川を舟で渡った。
全身を泥まみれにしながら戦場へと駆けつけた。
◆
賜ったばかりの長刀を、ぶんぶんと得意げにふりまわしながら現れた景廉は、騎乗の景義と出くわした。
「ふところ島殿、まだ戦は終わっておりませぬな?」
「まだまだこれからじゃ」
それを聞くや、景廉は大きな赤い舌をべろりと垂らし、狂気の如くに笑い叫びながら戦陣に躍りこんでいった。
この頃には、堤館を討ち滅ぼした佐々木兄弟の軍も加勢に駆けつけていた。
俄然、頼朝方は優勢になった。
櫓上の敵も用意の矢が尽き、櫓は防御の用を果たさなくなった。
北条も佐々木も全軍が堀をわたり、
――ほんの四半刻もせぬうちに、ひとりの武者が髪をふり乱し、火の出るような勢いで館の内から飛びだしてきた。
ひとつの首を長刀の先に高々と掲げ、狂ったように叫んでいる。
「加藤次景廉ッ、山木判官を討ち取ったり、討ち取ったりィッ」
景義は呆れ返って、弟のほうにふり返った。
「あやつ、あとから来て、手柄をかっさらっていきよった」
「兄者、見よ、あそこで地団駄踏んでおるの、あれは悪四郎どんじゃなかろうか」
「うむ、悪四郎どんじゃ。若い衆と一緒になって真先に突っ込んで行ったというに、さぞかし悔しかろうのう」
「あちち、火の粉が飛んでくるわ」
次郎は乱れ飛ぶ燃え屑を、鎧の袖で払いのけた。
昨日までの雨を含んで、木材が燃えにくくなっていたのだろう。
合戦前につけるはずの火が、結局、合戦の後になってしまった。
徐々に燃え広がった炎は山木館を呑みこみ、天を貫いた。
時政の急使が、勝利の報を告げに来た。
新平次も守山の頂上から飛んで駆けつけた。いつのまにやら気がつけば、月は西に
頼朝は大きく息をつき、知らず知らずに力みづけていた肩の緊張をゆるめた。
成功の喜びは勿論だが、それよりも安堵のほうが遥かに大きかった。
炎の舌と黒煙たなびく東の空に、夜の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます