第17話 景義、権五郎を演ずること
与一は面持ちを引き締め、言った。
「この度の旗揚げには、私が若者たちをまとめるよう、佐殿から言いつかっております。みなの気持ちをひとつにまとめるためにも、ふところ島殿に、ぜひお願いしたいことが……」
「なんじゃ?」
「私が幼い頃、よく話してくださった平太郎と権五郎の物語、あれを若者たちに聞かせてやってはくれませんか」
景義は片方の眉を高くあげ、ニヤリと笑った。
「そういうことならば、喜んでひと肌ぬごうかのう。どれ、景気づけじゃ。次郎、お前も手伝え」
「承知じゃよ」
待ってました、とばかりに悪四郎はたちまち元気づき、大声をはりあげた。
「おぅい、みなの衆、ふところ島が『
たちまち武者たちも下働きの者たちもみな期待満々、ざわめきながら集まってきた。
やがて柱を背に、左右に
人々の耳目が集まるや、たちまちかれの独壇場が始まった。
身ぶり手ぶりをまじえながら、おもしろおかしく話すのである。
いつしか景義の顔は、ひとりの武将の顔から、話し好きの
◆
「武者たるもの、大きなみっつの合戦の名前くらいは覚えておきたいものじゃ。
ひとつは百年前の《奥州合戦》。
今ひとつは二十四年前、《保元合戦》。
みっつめは二十年前、佐殿が伊豆に流されなすった《平治合戦》。
このみっつのうち、これからわしがする物語は、百年前の奥州合戦の話じゃよ」
「今は昔――佐殿の三代前の御先祖、
兄弟の
義家公は兄の方にお味方なされた。
これが、奥州合戦じゃ」
「義家公に従う坂東武者のなかに、ふたりの勇者がござった。
ひとりは三浦の平太郎
この時、
与一、そなたをはじめ、三浦一族のご先祖じゃ。
もうひとりは鎌倉権五郎景正、齢わずか十六。
わしら鎌倉一族のご先祖じゃ。
ふたりとも勇猛果敢なつわものじゃった」
「合戦の舞台は、
この館はまわりを断崖に囲まれた、奥州一の要害じゃ。敵の大将、
戦のさなか、権五郎は敵方の武者と、馬上で弓争いとなった。
敵の放った矢は、ぎゅるんぎゅるんと旋回しながら、権五郎の右目を刺し貫き、顔面に突き立った。こんなふうにの」
言うなり、景義は長い
「ところが権五郎は偉かった。
敵の矢が頭の後ろまで貫通しても、まるで倒れなかった。
そう、単に刺さっただけではないぞ。
頭を串刺しにされたのじゃ。
……その串刺しのまま、敵が矢を放ったあと後のスキを狙って、ひょうふっと矢を放ち……」
もう片方の箸を、景義は矢のごとくに豊田次郎に投げつけた。
次郎も心得たものである。
飛んできた箸をすばやく掴むや、矢が首に突き刺さった態でおおげさに「ぎゃぁ」と叫んでひっくり返った。
これには満座が笑いころげた。
「……権五郎の矢は、みんごと敵の首を射抜いた。
『死中に活あり』とは、まさしくこのこと。
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