第4話 景義、春を届けること
於政は引き込まれるように笑顔になって、先ほどまでの憂いも忘れてしまった。
跳ねるように立ちあがると、両腕を広げ、明るい声を投げかけた。
「梅も
老爺はカカ、と笑った。
「それはそれは……参上が遅れましたかな。なるほど、梅も馬酔木も、お美しいあなた様を春の
「あいかわらず。
目を見合わせて、ふたりは噴き出した。
「
「いまだ、
ふり仰げば、山家はすべての戸を閉ざしたまま、ひっそりと静まりかえっている。
古さびて土壁は破れ、なかの木組みまで、むき出しのままである。
「粗末なところですが……」
と、於政は景義を縁側に招いた。「お疲れになったでしょう。ささ、腰掛けて」
「お気づかい、かたじけのうございます」
腰をおろした老人は、葛羅丸に手伝わせ、縁の板に次々と
「これが
こちらは
「いつもいつも、かたじけのうございます」
於政は瞳をうるませ、主人に代わって、深く頭をさげた。
藤九郎と盛綱も、にぎやかに集まって来た。
鶯の
――その時である。
ぞぞぞ、ぞぞぞ……と古屋の
外の様子を騒がしく思ってか、山家の主人が忽然と顔を出した。
現れたのは、冴えない三十すぎの男である。
もともとは美男であったものが、今では目も落ち窪み、頬も痩せこけ、不精髭も生え放題でむさくるしい。
景義を居間にあがらせると、主人は、品のよさげな
「いつもすまぬな、景義」
「いえいえ、お気になさりまするな、
佐殿――洒落た尊称で、田舎人からそう呼ばれるこの人は、名を
都から流されて来た罪人である。
罪人として伊豆山に隠遁している
ただ頼朝の場合は、すき好んでこの場所に来たわけではない。
そそと、於政が白湯の椀を差し出した。
伊豆山の霊湯を沸かしたなかに、白梅の花びらを浮かべてある。
景義は丁寧に礼を言い、早春の光あふれる湯水を一口ふくんだ。
景義は昔、頼朝の亡父に親しく仕えていた。
それで、頼朝が罪人となった今も、なにくれとなく世話を焼いている。
「この度はまた難儀なことになりましたな」
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