第80話 大倉御所、完成のこと
富士川に出征して平家軍を追い払った頼朝は、北に
景義は、常陸攻めには同行せず、坂東中から職人や人足を駆りだし、新都造営に明け暮れた。
材木は大庭から、土肥から、三浦から、房総から、海をわたって続々と鎌倉へ集積された。
やがて、若宮八幡宮の仮宮と、大鳥居が完成。
はやくも
◆
屋根はすっきりと瀟洒な
東西南北の四棟から成り、南側には大きな池を
西の
……まさに
しかして特異な点は、寝殿の西側、差し渡し十八間にもおよぶ巨大な
これは頼朝と御家人たちとの接見の場であり、御家人たちの衆議の場となる。
一般的な貴族の寝殿でさえ差し渡し七間であることを考えれば、十八間という大きさは倍以上、比して驚くべきものであった。
これぞ、武家の棟梁の館と呼ぶにふさわしい。
これら豪壮な寝殿と侍所が、ぽつねんとして見えるほど、敷地は有り余るほどに広かった。
総ずれば、五町にも及ぶ。
これから順次、いまひとつの寝殿――これは幼い姫のためのもの――と、十間規模の大
建物は内装の細部まで、丁寧な仕事が施されている。
都を知らぬ者は、今までに見たこともない建造物の有様に驚愕し、憧れを覚えた。
都を知っている者たちですら息を呑み、
まさにここから自分たちの新しい時代が始まるのだと、誰もが期待に胸を躍らせた。
◆
この新しき御所に、坂東の
人々はみな気負いこんで、色も艶もある一張羅に、身を飾ってやってきた。
敷地の西南に、幕府総門が聳えている。
きらびやかな八双鋲を打った、桧皮葺の
左右には巨大な篝火が焚かれている。
一歩なかへ踏み込めば、まずもって東西横長の、異様な建物が目に飛び込んでくる。
――これが侍所である。
数多の篝火と灯篭にあぶり出され、闇のなかに忽然と浮かびあがっている。
侍所に昇殿を許されるのは、選ばれし少数の御家人のみ。
大多数の御家人たち、郎党雑色たち……ゆうに千人を超えるであろうそれらの人々はこの建物を
侍所には屋根はあるが、壁がない。
このため、内部の様子が、高床の舞台のようにありありと見えた。
……そう、それはまさに舞台と呼ぶにふさわしかった。
右手、最奥には、きらびやかな屏風が立てられ、畳が高く積まれ、豪奢な敷物が敷かれている。
まごうことなき、玉座である。
昇殿した御家人たちは、南列、北列……縦二列に長々と座して、朝日昇る東の方角に、玉座を仰ぎ拝している。
この舞台を前に、
寒夜に明月は冴えわたり、風も穏やかに静まって、今しも最高の舞台が整っていた。
ひゅんひゅんと風を切り、
陣太鼓が重々しく打ち鳴らされた。
いよいよ、その時がやってきたのである。
黄金の衝立の背後から、万騎の盟主、源頼朝の姿が
すると人々のあいだからおのずと合戦を思わせる
歓呼の声は夜を破らんほどに高まって、鎌倉の山海を圧しながら果てしもなく響きわたるのだった。
※ 大倉御所 …… 現存せず。
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