第二章 烽火
第21話 若者たち、大暴れすること
第一部 戦 乱 編
第二章 烽 火
一
長雨の夜が明けてみると、天気はまことに快晴であった。
雨に洗われた風の気配、空の青色がとても
この日、
頼朝は朝早くから抜かりなく
館の東、蛭島の湿地帯を貫いて、南から北へと悠々たる狩野川が流れている。
この狩野川から一筋の支流が別れ、小川となって館の裏手へ注ぎこんでいる。
岸辺の洗濯場では、伊豆の若者、相模の若者がそれぞれに群れ集い、顔や体を洗っていた。
夏の終わりの色濃い緑が、対岸を覆いつくしている。
水面には時折、鮎が跳ねて銀色の腹をひらめかせる。
「今朝はてっきり合戦だと思ったぜ……」
「拍子抜けだな」
「つまらぬことよ」
「延期の理由はなんだ?」
「知らん」
伊豆の若者たちはひとところに集まり、口々に推測しあった。
「人数がそろっておらぬからではないか」
「千葉も三浦も動いておらぬようだし……」
すると、黙って聞いていた伊豆の荒武者、加藤
「千葉や三浦は臆病風に吹かれやがったか。グズグズしおって、ちっとも腰をあげん。やつらは最初から旗揚げに加わる気がないんじゃろう」
ずぬけて、
聞こえよがしのこの声が、近くにいた相模の若者たちの耳に入った。
――耳に入った以上、黙ってはおられぬ。
三浦一族の
「三浦は必ず来るッ。奥州合戦の平太郎為継を知らぬか。三浦は源家の旧臣、武勲の家ぞ」
微塵も臆する様子なく、景廉は鼻であざ笑った。
「なに、三浦なぞ要らん。伊豆武者はひとりが千人力よ。相模者など屁の役にも立たぬわ」
「侮るか」
「侮ったら、なんだ?」
「謝れ」
「ハハハ、謝るってのは、こういうことか?」
たちまち凶拳をふりあげるや、景廉は相手の胸板に一撃を喰らわせた。
為重は歯を喰いしばってどうにか踏みとどまると、反撃に掴みかかった。
翡翠の玉が散り砕けるように、ぱっと蜻蛉の群れが一斉に舞いあがった。
相模者も伊豆者も激昂して互いに掴みあい、乱戦となった。
全裸半裸の若い男が入り乱れ、あちらこちらで暴れあい、殴りあう。
奇声、蛮声、狂声、ことごとく飛びかい、
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