第45話 負けられない戦い

 バチバチと火花を散らし睨み合う二人。そこには一歩も引けない、負けられない戦いがあった。


「……」

「……」

「君たちは仲良くゲームできないの?」

「「できない!!」」

「即答……」

「愛美と智依ちゃん、今にも互いを殺しそうな雰囲気出しててワロタ」

「……!」

「……!」

「互いの無言の圧ゥ……」


 そんなわけで前回のあらすじ! 私、川瀬愛美は思いを寄せる人、谷口陽太に家に来ないか……? (脳内イケボ再生)と誘われる。だが、しかぁーし! そんな私たちの仲を引き裂こうとする悪女、柴田智依にそれを阻止され! 二人っきりの甘い時間はおじゃんとなった! そして、なんやかんや華凛も来て、なんやかんやでゲームで決着をつけようという話に! 以上、回想終わり!


「ぶっ殺してあげるわ……」

「かかってきなさい。ただし、骨が残るとは思わないことね……」

「女子高生の会話とは思えないほど物騒なんだが……」

「この二人面白いねwww」


 私はコントローラーを握りしめ、画面に向かう。ジャンルはいわゆる格闘ゲー。


 「…………あなたみたいな素人には負けないから。かかってこいや、メンヘラ激重学年一位女」

「……言ったわね、拗らせおひとり様コース女」

「…………どうしてこうなった」

 

 私は川瀬愛美。常にトップであれ、と自分に言い聞かせ生きてきた女。この勝負でも、勝利を収めて見せる!


『WINNER TIE』

「なっ……」

「はっ」


 数分後、画面に表示されていたのは智依の勝利。私の敗北。そして聞こえるのはヤツの嘲笑。

 

「…………なんと言うか」

「…………愛美、めちゃくちゃ弱いな」

「!」

「ぷっ」


 二人の感想を聞き、智依の嘲笑。めちゃくちゃ馬鹿にしている。

 

「もう一回よ! もう一回」

「ふっ、何度やっても同じこと。叩き潰してあげる」

「そりゃ、こっちのセリフよ! 次こそあんたを——」

 

『WINNER TIE』

 

「…………」

 

 あっさり負けた。簡単に負けた。だが、これで終わるわけにはいかない。

 

「もう一度!」

 

 そして一時間後。

 

「…………」

 

「ぼろ負け……だな」

「愛美ってゲームとかあんまやらないからねー」

「クソザコ川瀬ちゃん可愛い〜」

「うぐぐぐぐぐ」

「所詮あなたは敗北者。ただの負け犬よ」

「いい気になりやがって……!」


 全く勝てない。こちらの攻撃の暇も与えず、攻撃を叩き込まれKO。袋叩きにされ負ける。この繰り返し。オマケにここぞとばかり煽られる。

 

「…………くそぉ。どうすればいいんだろ」

「…………」

 

 もっと防御を意識した戦い方をすればいいのかな? それとも、もっと攻めを意識する? うーん……。

 

「ははっ」

 

 ふと、横を見ると陽太が笑ってる。

 

「な、何?」

「ごめん、ごめん。……愛美ってこういうのでも変に真面目なんだなって。意外と負けず嫌い」

「え、いや、その……」

 

 私の顔は恐らく今赤くなってることだろう。恥ずかしい。

 

「……さすが愛美だな。そういうのなかなかできないからさ」

 

 さらに顔が赤くなるのを感じる。我ながら単純だ。褒められただけで、こんなにも嬉しいなんて。でも、仕方ないよね。だって、好きな人に認められるのは誰だって嬉しいもの。

 

「……あ、ありがとう……」

「あ、いや……」

「——おーい、そこいちゃイチャイチャしない」

 

 はっとする。ジト目をした華凛と智依がそこに。

 

「いや、別にイチャイチャなんて……」

「そ、そうよ! そんなこと全くない!」

「あーはいはい。それよりそろそろ帰らない? 日も落ちてきたし……」

 

 はっとし、時計を見る。時刻は十七時半。

 

「うん、そうだね。そろそろ帰らなくちゃ」

 

 と智依も同意する。みんなと同じように私もそろそろ帰るとしよう。……まあ、家に帰っても誰もいないけど。

 

「うん? はい、もしもし」

 

 着信音が聞こえ、陽太が応答する。


「え? マジ? ……兄貴も帰ってこない……そう、わかった。じゃ」

 

 通話が終わり、陽太はため息をひとつついた。

 

「どうしたの?」

「あ、いや……実は今日親が仕事で遅くなるって連絡来てさ。飯、どうしようかなぁ……って思ってただけ」

「そうなんだ……」

 

 どうせ、私帰っても一人だから、私がご飯用意してあげても……ってそれはさすがに差し出がましいよね。彼女でもなんでもないんだし。

 

「それなら、愛美が陽ちゃんにご飯作ってあげれば? 愛美のご飯すっごい美味しいんだよ〜」

「ちょ、華凛!?」

 

 慌てる私に華凛は耳元で囁く。

 

「(まずは胃袋から掴めって言うでしょ? これはチャンスだよ)」

「(だ、だからって……)」

「陽ちゃん、どうっすかー?」

 

 まだいいって言ってないんですけどー!?

 

「ま、愛美さえ良ければお願いしたいかな……なんて」

「あ……」

 

 少し照れたように言う陽太。

 

「う、うん。じゃあ……お願いします」

 

 気付けばそう声に出していた。うう……でも、確かにこれはチャンスかも。

 

「異議あり」

 

 その時、異を唱える声が。……もちろん、声の主は智依だ。

 

「川瀬と陽太君を二人きりにするのは……じゃなくて川瀬だけに陽太君の食事を任せるのは不安。なのでここは私も——」

「はいはい、今日はここまでにして帰ろうね〜智依ちゃーん」

 

 智依の言葉を遮り、華凛は彼女を引っ張って行く。

 

「じゃ、またねー二人とも」

「待って、まだ終わって——」

 

 智依の言葉は最後まで発されることなく、ドアの向こうへと吸い込まれて行った。二人残されしばらく呆気にとられていた。

 

「と、とりあえずゲーム片付けるな……?」

「あ、はい……」

 

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