第33話 愛という名の呪い

「じゃあ、また明日ね」

「……うん」

 

 愛美の姿を見送る。

 

「……はぁ」

 

 やっぱり、この間までの愛美じゃない。傍から見たら愛美はいつも通り、明るく優しい人物に見えるだろう。だけど、長年見てきた私はわかる。愛美は変わってしまっていると。……いや、違う。正確には戻ってきている。中学時代の愛美に。愛美が今のように明るくなったのは陽ちゃんと出会ってからだ。

 

「…………私は昔も今も同じ。愛美のために何もできない。友達のために動かなければいけないのにどうすればいいかわからない。……情けない」

 

 昔の愛美は今とは違い、誰にも興味を持たず、冷たい子だった。いや、違う。誰かに関心を持つ余裕すらなかった。そんな彼女と友達になれたのは半ば奇跡みたいなものだけれど。

 

「愛美、何で……」

 

 ……原因はわかってる。全部、私のせいだ。愛美は、乗り越えてなかったんだ。お母さんとのこと……家族との関係。それに気づかず、私は勝手に愛美はもう大丈夫とか勝手に思って……。

 

「…………私は…………どうしたらいいんだろう……」

 

 ◆

 

 私は家族に愛されたい。そう思って生きてきた。誰にも関心を持たず、他人を顧みないその態度に誰にも理解されなかった。されなかった、と言っても恨んでいるわけじゃない。愛想がない人なんて好かれるわけがないし、嫌われて当然だ。そんな私に唯一優しく接してきてくれたのが華凛だけだった。華凛といるのは楽だった。どれだけ態度が悪くとも、愛想がなくとも、嫌な顔をせず一緒にいてくれるからだ。……こんな良い友達がいれば、少し性格が変わっても良いものだが、私は変わらなかった。

 

 ……私にとって大切なのは、お母さんに愛されること。家族に愛されることだけだった。私はただ……愛されたかった。そのためなら勉強だってスポーツだって、なんだって頑張れた。

 

 ——私は、愛されたかった。

 

「……来週から林間学校か」

 

 誰もいない家で私は一人呟く。家に家族は誰もいない。兄は基本、外食だし、お母さんもお父さんも仕事で殆ど家に帰らない。……林間学校か……。勉強時間、少なくなっちゃうな……。

 

「今度の期末試験……絶対、一位取らなくちゃ……じゃないと……」

 

 その時だった。ガチャリ、と家のドアが解錠されるされる音が聞こえる。そして、足音が段々と近づいてきて、リビングに一人の人物が入ってくる。

 

「——顔を合わすのは久しぶりね、愛美」

「…………お母さん」

 

 そこにいたのは、お母さんだった。

 

 

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