第31話 不穏
「ねね、柴田さんって陽ちゃんのこと好きなのかなぁ?」
「は? 知るかよ」
私、小谷華凛は武瑠と通話しつつ勉強していた。……いや〜今回、私も何気に学年一位、目指せてもらっているのでね。
「いや〜あそこまで陽ちゃんに固執してるのってちょっとおかしくない?」
「まぁ……お前の話を聞く限りではそうだな。つーか、陽太も大変だな……」
「なーに、それ。まったく興味無さそうじゃん。いいの? 陽ちゃんがぽっと出の女に取られても」
「俺としちゃどっちでもいいんだがな」
「この薄情者〜!」
「いやいや……俺にとっちゃ陽太が一緒にいて幸せと感じてくれるなら人ならどっちでもいいよ。あいつはいいヤツだ。こういった幸せを感じてくれてもいい」
「…………むーそういうもんか」
……あれ、なんかこれはこれで捗る……?
「…………なんか変なこと考えてるだろ」
「…………デュフ」
「隠す気すらねぇ……」
◆
「——試験開始」
その声で一斉にクラスの全員が問題用紙を表にする。……うん、わかる。川瀬や智依に教えてもらったりしたことが十分に活きている。着々と問題を解いていく。そして、最後の問題を解き終える。うん、少なくとも赤点だけは絶対ないな。あとは……二人がどうなるか、だが……俺の心配は必要ないだろう。あいつらなら大丈夫だ。
試験は終わり、結果が返ってくる。試験の順位がわかるのは試験後一週間が経ってからだ。それまではどうしようもないので二人には気を抜いてほしいが、やはりそれは無理か。……ちなみに俺はほとんどの教科が平均点くらいの点数なので間違っても、上位の順位になることはないだろう。
そしてとうとう順位発表の日。俺と川瀬は、廊下に貼りだされた順位結果を見に教室を出る。教室の前では智依が腕を組んで待っていた。
「……あんた、コンタクトにしたの?」
「いえ、メガネを外しただけです。元々、伊達だったので」
「……あっそ」
そして二人は無言のまま歩く。俺は一歩下がったところで二人の後に続く。
「……そう言えば、あなたに言わなければいけないことがあります」
「……何よ」
智依は立ち止まる。川瀬も同じように立ち止まり、振り返り訝しげに智依を見る。
「…………この間はごめんなさい」
智依は深々と頭を下げる。
「あなたに対してあまりにも失礼なことを言ってしまいました。……本当にごめんなさい」
「……まだ結果を見てないのだけど?」
「ええ、そうですね。けれど、勝ち負けに関係なくあなたには謝罪するべきだと思います。……あん なこと、誰に対しても言うべきではない。いえ、言ってはいけない」
「…………そ。私の谷口との関係についての話は?」
「あれも無効でいいですよ。……だって」
チラリと智依はこちらを見る。
「……どうやら私はこの先一人で抱え込んで生きていかなくてもいいみたいですから」
「…………」
笑顔で言う智依に川瀬は眉をひそめて言う。
「……その考えに変わったこととメガネをかけなくなったことに関係は?」
「さて、どうでしょう?」
ふふっ、と智依は笑い歩き出す。
川瀬もそれに続くが、一瞬こちらを睨んだ気がする。
「…………そう言えば、私、あなたのことが気に入らない理由が何となくわかった気がするの」
「奇遇だね。私もだよ」
「…………あんた」
「何か? 川瀬さん?」
「……いいえ。で、何かしら?」
「……あなたを見ると昔の私を思い出すの、川瀬さん」
「……そう。私も昔の自分を思い出すの、柴田さん」
二人の視線がぶつかる。
「「本当、気に食わない」」
二人、同時に言う。……案外、この二人は上手くやれるのではないだろうか? 俺はそんな考えを抱く。
「まあ、いいよ。どうせ勝つのは私。川瀬さんはハンカチでも噛んで悔しがってれば?」
「それはあなたでしょ? ハンカチ貸そうか? あ、返さなくていいからね」
二人は睨み合う。今にも取っ組み合いを始めそうだ。……前言撤回。やっぱり無理そう。……と、そんなことを言い合ってる内に目的の場所へとたどり着く。
「……覚悟はいい?」
「……もちろん」
学年十位から見ていく。まず、初めに柴田智依の名前が目に入る。順位は——
「さ、三位……」
智依が絶望的な顔をしている。……智依は今回の勝負には勝てなかったのか。となると、川瀬か……? が、川瀬の表情を見ると浮かない顔だ。川瀬の順位は……二位。マジか。てっきり、一位かと思ってた。となると一位は一体誰が——
「やった、一位!!!!」
ものすごくうるさい歓喜の声が響き渡る。……なるほど。俺は学年一位にある名前を見る。
一位 小谷華凛
……そういや、華凛は新入生試験で学年二位だったし、学年一位も十分ありうるか。
「…………まさか、この勝負の発案者が一位を取るとか」
今回の勝負の勝利条件は学年一位。つまり、今回の勝負、勝者なし。……一位と二位の点数差は僅差だ。もう少しで川瀬が一位だったが……惜しくも逃したか。
「残念だったな、川瀬……川瀬?」
川瀬はこれまで見たことのないような表情をしていた。……いや、この表情の川瀬は一度だけ見た事がある。川瀬と初めて会った時だ。
「……学年二位。どうしよう。……駄目。お母さんに見放される。どうして? ……そうだ、私が気を抜いていたから。自分の欲求ばかり優先して、ちゃんと努力しなかったから……」
俺は油断していた。……いや、忘れていた。みんなの人気者で明るい美少女。そして、小悪魔。と思いきや以外にポンコツ。だけど、優しい少女。それが俺が思う川瀬愛美という人物。……けれど、これは今の川瀬に対する人物評。出会った頃の川瀬は……
——一人で苦しむ少女だった。
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