第20話 お隣りさんっていいよね
「ちょ、ちょっと待って! ……それって、転校するってこと?」
私は慌てて華凛に問いただす。だってそうだ。引っ越すってことは、こことは違う場所に行ってしまうってことだ。それは……それは私にとって、とても耐えられることではない。谷口と出会う前……私が私を保っていられたのは、華凛のおかげだ。華凛がいない日常なんて私にはとても無理だ。そんな焦りと不安を抱え、華凛の目をじっと見る。そんな私を、また華凛もじっと覗き込み目を合わせる。
「……それは……」
……え?
「……それは……!」
華凛はとてもつらそうな顔をして、言いづらそうに歯を食いしばる。……噓でしょ。まさか本当に離れ離れに――
「それは……ないねー。転校なんてナイナイ! これからも同じ学校だよー」
「……は?」
……さっきの表情から一転、華凛はなんとものんびりとした表情で言う。あまりの変わりように私はポカンとしてしまう。しかし、すぐに我に返る。
「え…? えっと……どういうこと? ……う、嘘だってこと……!?」
「ううん。違うよ。引っ越しはするよ。ただ転校しなきゃいけないような場所ではないっていうこと」
「そっ……そうなのぉ……? ……よかったぁ……」
私はほっとして一息つく。顔を上げると華凛がニヤニヤしてこちらを見ていた。
「な……何よ……?」
私はその顔に少しムッとして言う。
「いやー別にー? ただ、愛美そんなに私のこと好きだったのかーと思ってさ~」
「うっ……いや、そういうわけじゃ……」
私は恥ずかしくなり、目を逸らす。
「いやーん。愛美可愛いー! うおー! こんなん陽ちゃんに渡したくなくなるわー! 愛美は私のもんやー!」
「ちょ、やめてよ……!」
華凛が抱きしめてくる。私はそれを引きはがし、ため息を吐く。
「……で、どこに引っ越すのよ?」
「うん? ああ、それはね……」
◆
「あ。そういえば、陽太。隣に新しく一軒家建ってんの気付いた?」
「んー」
「今度、そこに華凛が引っ越してくるんだってよ」
「んー……え!?」
アニメを見つつ話を振ってくる武瑠の話を聞き流していたが、さすがにこれは聞き流せない。というかいきなりの話過ぎて思わず驚きの声で反応してしまう。
「凜ちゃん引っ越すの初耳もそうだが、引っ越し先がお前の隣?」
「そうそ。俺も昨日いきなり知らされた。荷物片づけてたらLINEが来ててよ。確認したら『キャンプの時言い忘れてたけど今度あんたのお隣に引っ越すからよろしく』だぞ。唐突にもほどがあるだろ」
「確かに……ってか川瀬は知ってんのかな? お前の隣に引っ越すって」
「あー……なんか、今日一緒に遊ぶからその時に話すって」
「……絶対驚くだろうな。川瀬」
「……だよなー」
二人して顔を見合わせ溜息をつく。凜ちゃんは昔から重要なことを何の前触れもなく言い出すことがあった。まあ……たまに、といった頻度なのだが、川瀬は慣れているのだろうか? ま、意外にこういった突然の出来事にうまく対応できたりするかもな。実は冷静に今回の引っ越しについて受け止めてたりしているのではないだろうか。
◆
「西山君の家の隣!?」
「うん。そうそ。武瑠のお隣さんよ」
「ほへー。何というか……ラブコメにありがちな環境だねー。幼馴染で家は隣同士って」
「あははは。言われればそうかも。ま、現実はそんな甘い展開にはならんけどな」
「うーん。それはそうだけど……」
お隣同士かあ……。ふと、私は仮に谷口が隣に引っ越してきたら、と想像する。……朝は谷口を起こしに行ったりして、夜はご飯をおすそ分けしたり、寝る前に窓越しで話して、おやすみって言いあったりして……。うん、悪くない。それどころか滅茶苦茶いい! そう考えたら、お隣同士とか滅茶苦茶羨ましいじゃん! あ。でも隣に谷口がいるっていうのは、何気に私のメンタルが持たなさそう……。悩みどころだなあ……。
「もしもーし。大丈夫ですかー? 愛美さーん?」
「ハッ……! ななな、何?」
すっかり妄想に夢中になっていた私は、華凛の声にハッとしてあわてて返事する。
「めっちゃ顔赤くなっとるやん。さては、陽ちゃんが隣に引っ越してきたら……なーんて考えてたな?」
「うっ……」
完全にバレてる。そんなわかりやすいかな……私?
「あはははは。いいじゃん、いいじゃん。好きな人がお隣さんだったら……って誰でも一度は考えることだよ」
「そうなの……?」
「で、愛美はどうせ、起こしに行ったりおやすみの挨拶とかそんなこと考えてたんだろうけど」
「うぐっ……」
な、何でわかるのよ……。私は心の中でそう弱々しくつぶやいた。
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