第17話 視線が合う(前編)
温泉から上がり、スマホをチェックすると、川瀬から位置情報付きでメッセージが届いていた。
『今日の0時にここに来て』
俺は武瑠に気付かれないように返信を打ち込む。
◆
ジャージに着替え、ドライヤーで髪を乾かしていると、スマホの通知音が鳴る。見ると、谷口からの返信が届いていた。私は華凛に気付かれないようにこっそりとメッセージを確認した。
『わかった』
◆
温泉から出ると、結構な時間が経っていた。もう夜も遅く、俺たちはそのままテントで休むことに。
「じゃあ、二人ともおやすみー。夜這いとかしに来んなよ~」
「おうおう、今の言葉でその確率はゼロからマイナスへと下がったから安心しろ」
「む。武瑠、私のこと、なんだと思ってんの」
「「ヤベぇ女」」
「ひどっ! てか、陽ちゃんまで!」
「はいはい、もう寝るよー華凛ー」
「愛美まで!」
川瀬はギャーギャー喚く凛ちゃんの首根っこを掴み、テントへと強制連行する。テントに入る直前、川瀬がこちらに視線をよこす。目が合う。心なしか、川瀬は若干緊張しているように見えた。
「じゃ、おやすみ。西山君……谷口」
「おう、おやすみ川瀬さん。華凛に気をつけてな」
「……おやすみ、川瀬」
「……うん」
俺が言うと川瀬は表情を柔らかくし、微かに微笑む。
「んじゃ、二人ともおやすみ~また明日」
凛ちゃんは片手を挙げて言うとそのままテントへと入って行く。夜でも元気な奴だ。それに続き、川瀬もテントへと消えていった。
「じゃ、俺達も寝るか」
武瑠の言葉に頷き、自分達もテントの中に入る。テントの中に入り、俺はスマホの明かりを付ける。時刻は22時を少し過ぎた頃。川瀬に指定された時間までまだ結構あるな……。
俺はモバイルバッテリーをスマホに接続し、スマホの明かりを最小限までに落とす。そして、そのまま寝袋へと入る。武瑠の方を見ると、奴も俺と似たような行動を取っていた。そして武瑠は寝袋に入ると俺の方を向きキリッとした表情で
「さて、谷口君」
「……なんだよ」
「友人と共に寝床を一緒にする。そんな時することと言えば一つだろう?」
「……おやすみ」
「おっと、待て待てマイフレンド。それはないだろう」
「…………」
「その無言やめろ。心底面倒くさいという顔やめろ」
俺ははぁ、と大きなため息をつく。……まあ、いっか。どの道、時間潰しは必要だったし。とりあえず、周りに迷惑をかけないよう声は抑えめで話せばいいだろう。
「……わかったよ」
「さすが陽太。よし、じゃあ……恋バナすっか♪」
「……おやすみ」
「オイオイ待て待て。ジャストミニッツ」
「なんだよ……」
「いや、やっぱこういうのは恋バナが定番じゃんかよー」
……まあ、一理あるか。武瑠みたいなモテ男と恋バナなんてゴメンだが……仕方ない。
「ま、定番と言えば定番だよな。……ただ、お前みたいなモテ男と恋バナとか何の罰ゲームだよと言いたくはなるが」
「まあ、そう言うなよ」
「……つーか、なんでお前付き合わねえの? とりたて理想が高いって訳でもないだろ? お前」
俺がそう問うと武瑠は、はははと苦笑する。
「まあ、そうだな。別に恋愛がしたくないとか、彼女が欲しくないわけじゃない。実際、今まで二人の子と付き合ったし」
……まあ、武瑠なりの苦労や悩みがあるのだろう。俺も武瑠が付き合っていた時の話は聞いたことあるし、相談されたりしたこともあるしな。
「恋バナを提案した側が、ダメージ受けるとか、世話ないな」
「うっ……それを言われると痛いが……そう言うお前はどうなんだよ」
「……別に川瀬とは何もないぞ」
「俺は川瀬さんのことなんて何も言ってないけど?」
「うっ……」
俺の反応が面白かったのか、武瑠はククク、と癪に障る笑いをもらす。
「でも、川瀬さんめっちゃ可愛いからなー。もしかしたら彼氏とかいるかもな」
「川瀬に彼氏……」
川瀬が知らない男とデート。その場面を思い浮かべる。……何故かとても嫌な気持ちだ。俺がしばらく黙っていると武瑠が少し真面目な声で言う。
「なあ、陽太」
「……何だよ」
「俺は思うんだけどさ、好きって言うのは、たくさんその人のことを考えたりしてることだと思うんだよ」
「なんだそりゃ」
「ムカついたり、心配したり、不意にドキっとしたり、一緒にいることが楽しい……そーいうのって好きってことだと思わないか?」
「いきなりなんだよ。気持ち悪いぞお前。黒歴史でも作るのか?」
「うっせえ……どれだけ認めたくなくても、勘違いだとか、色々理由つけてもさ……その人のことにそれだけムキになってる時点で、それは好きってことだと思うんだよ」
「……なんだそりゃ。お前が昔好きだった人の話か?」
「ちげーわ。……ああ、もうなんかハズくなってきた! 俺は寝る! おやすみ!」
「深夜テンションって厄介だよなー」
「ホント、それな!」
それっきり、武瑠は何も言わなくなった。
「ムキになってる時点で好き……か」
俺はしばらく武瑠の言ったことをぼんやりと考えていた。
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