第2話 生きている
第二話 生きている
どれくらい闇の中にいただろうか……。
心細くはなかった、今までのように軋む心臓の音はしなく心地の良い闇だった。
目を開けると、そこは見慣れた病室のベッドの上だった。
「っ……! あなた、先生を呼んできて!」
「あ、あぁ……あぁ! 天! がんばったな……!」
お母さんとお父さんが並んで喜んでいた。
僕があの日眠ってから目を覚ますまで5日が立っていた。
その間に手術が行われ、無事、僕の心臓は……新しい心臓になったという。つまりドナーが見つかったのだ、あと数時間遅かったらもう僕はこの世にいなかったらしい。
「天、もしこのまま拒絶反応がでなければなんでもできるぞ、学校にだっていける、サッカーだって、野球だってできるんだ!」
お父さんが興奮気味に、僕に言う。
――もし身体が……治ったら……?
そんなこと考えたこともなかった。
でももしそんな日が来るのだとしたら、来たのだとしたら、僕のやりたいことは決まっている。
「僕……アイドルになりたい、藤谷昴くんみたいな……って、そうだ! あれから5日も経ってるってことは昴くんのドームライブもあったよね? アーカイブで配信見れないかな?」
「……」
お父さんも、お母さんも顔を見合わせて何も言ってくれない。
「……どうしたの? 配信はしてなかったっけ?」
「天……その……昴くんは……昴くんは亡くなったよ……」
その言葉を聞いた瞬間心臓が跳ねるように、鼓動する。
「え……嘘でしょ……?」
「本当よ……ちょうど、天が倒れて意識がなくなってからすぐ、速報で流れてきてね……」
僕は、いままで僕の世界を作っていた何かが足元から崩れるような感覚に襲われた。
「そ……んな……」
「念願のドームライブの前日だった……おそらく昴くんが一番悔しい思いをしているだろう……」
目の前が真っ白になる。
僕の命は助かったというのに、起きたら昴くんがこの世界からいなくなっていた……。
僕は、信じられない気持ちでニュースサイトを見る。
交通事故、謎の死、不可解なブレーキの後……陰謀論、都市伝説、様々な検証がなされていたけれどもその先に全て「藤谷昴くんが死んだ」という事実のみは変えられないニュースとして存在していた。
「う……うぅ……あぁああぁあぁああ!」
僕は声を出して泣いた。
それから数日は泣いて過ごした。
心の辛さとは逆に体調はみるみると良くなり、その日から1ヶ月後僕は退院することになった。
あとはリハビリなどで通院すればいいため、家に帰れるそうだ。
お世話になった先生たちにお礼を言い病院を後にする。
そして、久しぶりの我が家に帰ってきた。
僕の部屋には昴くんのポスターが飾ってある、デビューしてからの数年の間のグッズも大切に保管してある。
僕はそれを見て再び涙があふれそうになった時……。
昴くんの声が聞こえた気がした。
『僕は今、つらい思いを抱えている人、苦しい気持ちを抱えている人、そんな人の支えに少しでもなりたいと思っています。大袈裟な言い方をすると、全ての涙を笑顔に変えたいんです……はは、本気ですよ』
そうだ……、昴くんはそう言ってたじゃないか。
僕だって辛いけど……、でも、昴くんはそういう人を笑顔に変えたいって……本気で……。
お芝居以外では泣いちゃダメだ。
僕は涙を奥歯でぎゅっと潰すと、そのまま笑顔になる。
笑顔を崩さず居間に向かい、お父さんとお母さんに僕の決意を伝える。
「お父さん、お母さん……僕、アイドルになる、昴くんみたいな!」
身体の弱かった僕は、伝説のアイドルの心臓を移植されて、アイドルを目指すようです。~War of the Voices オーディション番組を勝ち上がれ~ おんやさい @onsaiga
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