身体の弱かった僕は、伝説のアイドルの心臓を移植されて、アイドルを目指すようです。~War of the Voices オーディション番組を勝ち上がれ~

おんやさい

第1話 虹崎天

僕、虹崎天の心臓にはいつ爆発するかわからない爆弾がある。


一日一日、ただ起きてるだけでも辛くなっていき、9歳になった今では一日の大半を寝てすごしている。

動ける時間がとても減っていて、もう自分が長く生きられないんだと考えるようになっていた。


明日はどれくらい身体が動かせるかわからない……。

けど、楽しみがないわけじゃなかった、僕の毎日の楽しみは大好きなアイドル藤谷昴くんを見ることだった。

僕は小型のタブレット端末を手に、身体を起こしている。


「無理して起きてなくてもいいのよ?」


僕の顔を母は心配そうに覗き込む。


「大丈夫!今日は藤谷昴くんのライブのためにいっぱいねたから」

「今日は……っていつもじゃない、天は本当に昴くんが好きね」

「うん、昴くんのこともっと応援したいから、早く元気にならないと!」

「……そうね」


藤谷昴、今を生きる"伝説"のアイドルだ。3年前に始まったオーディション番組『War of the Voice』の初代王者で、デビューした瞬間にトップアイドルになった。

僕も『War of the Voice』の頃からアイドルの藤谷昴くんからのファンで、病気がわかってからは文字通り昴くんから生きる力を貰っていた。


昴くんは全ての涙を笑顔に変える、と夢みたいなことを言っているけど本当にそれをやれそうなくらいの人気者だった。


僕も昴くんの歌声ですぐに元気になった。

笑顔になった。

だからまず僕は一番近くで僕のことを見ているお母さんを笑顔にするため、どんなに辛くても笑顔でいると決めていた。


『それじゃあ次は最後の曲! ”笑顔の明日”聞いてください!』

「あー、今日もすごいなぁ昴くんは……明日はいよいよドームライブかぁ……」


昴くんの生命力に溢れた歌声は、毎日僕を現実にとどめていてくれた。


だけど……その日はやってきた。

僕の心臓の爆弾が限界を迎えたのだ。


今日も昴くんを見ようと、身体を起こした時、突然目の前が白と黒にチカチカしたとおもったら暗くなっていった。

先生とお母さんの声が遠くに聞こえる。


「……いつ……が悪化しても……ない状態です」

「ドナーは……まだ……」

「……私達も最善を尽くします」


僕は軋む心臓の音を聞きながら段々と意識が遠くなっていく気がした。


(……あぁ……もう……ダメなのか……ごめんね、お母さんそんな悲しい顔しないで……)


とっくに覚悟はできていた、だけど心残りがあるとするならお母さんの、先生の笑顔が見られなかったことだ。


でも、もうあたまでかんがえることもむつかしくなっている……。

ぼくは、ぼくのせかいは……ふかいふかいやみにのまれた……。


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