第25話

 (※ミランダ視点)


 私は憲兵の駐屯所に連行され、現在は取調室にいる。


 いったい、どうして……。

 証拠なんて、何もないはず……。

 私は連れて来た彼らには、これは不当な逮捕だと訴えた。 

 もちろん、犯人は私なのだけれど、証拠がなければ言い逃れできる。


 しばらく待っていると、取調室に一人の人物が現れた。

 その人物はなんと、シェリルだった。


「どうも、お久しぶりですね」


 彼女はそう言いながら、私の対面の席に座った。


「いったい、どういうつもり? 私を殺人未遂で逮捕するなんて、何を考えているの? これは、不当な逮捕よ。あとで、正式に抗議してやるわ」


「さっきからそう言っていますが、それは、証拠がなければ、の話でしょう? 実は、あなたが犯人だと示す証拠があるのです」


「な、なんですって!?」


 私は、額から冷や汗が流れていることに気付いた。

 証拠があるですって?

 そんなの、嘘に決まっているわ。

 そう言えば私が自白するとでも思っているのなら、甘い考えだわ。


「事件の犯人は、あの店に侵入して、屋上からレンガを落としました。つまり、お店に侵入したのがあなただと証明できれば、充分な証拠となります」


「もしかして、お店のカギを持っているのが私だから、犯人は私だと言いたいわけ? そんなの、とんだ言いがかりよ。あのお店のカギは、店長だって持っているのだから、それは証拠にはならないわ」


「ええ、そうですね。私が言っている証拠というのは、お店のカギのことではありません」


「じゃあ、ほかに証拠でもあるのなら、見せてみなさいよ」


「ええ、今お見せします」


 彼女は、証拠を保管する透明の袋を見せた。

 その中に入っていたのは、粉々に砕けたガラスだった。

 おそらく、私がお店に侵入した時に、台にぶつかってしまった際に床に落ちた置物の破片だろう。

 でも、それが何だっていうの?

 そんなものは、証拠にはならない。


「これは、犯人が侵入した際に落としてしまった、ガラスの置物の破片です。そして、実はこのガラスの破片の中に、これが入っていたのです」

 

 彼女はもう一つ、証拠を入れる袋を私に見せた。

 その中に入っているものも、粉々に砕けたガラスの破片にしか見えない。

 小さな破片が一つしか入っていないけれど、最初に見たガラスの破片と同じものでしょう?

 それがいったい、なんだっていうの?


「これ、実はガラスの破片ではないのです」


「え……」


 いったい、どういうこと?

 どうみても、それもガラスの破片にしか見えない。


「私はあなたと会った時、何か違和感を感じていました。そして、それがようやくわかったのです。その違和感の正体は、あなたがつけている指輪です」


「指輪ですって?」


 この指輪が、いったい何だっていうのよ?

 アイザックがくれたこの指輪が、何の関係があるっていうの?

 私は指輪に視線を落とした。

 あれ?

 普段じっくりと見ることなんてないけれど、こうしてじっくりと見ると、何か違和感を感じるような……。


「私がアイザックに婚約破棄された時のパーティ会場でも、あなたはその指輪をつけていましたね。その時は、その指輪には、小さな透明のダイヤがついていました。でも、今はその指輪には、ダイヤがついていませんね」


「あ……」


 言われて気付いた。

 違和感の正体は、これだったのだ。

 えっと……、いつなくなったの?

 自然にとれるようなものではない。

 たとえば、何かにぶつけでもしない限り、外れることはない……。


 え……、もしかして……、嘘でしょう!?


「気付きましたか? これが、そのダイヤです。粉々に砕けたガラスの破片の中に、このダイヤが紛れ込んでいたのです。これこそが、あなたがあの場にいたという証拠です」


「そんな……、こんなことって……」


 まさか、そんな証拠があったなんて……。

 これで、私の罪は立証されてしまう。

 間違いなく、重罪だ。


「これであなたも、アイザックと同様に監獄暮らしですね。それでは、さようなら」


 シェリルは席を立って、私の元から去っていった。


 監獄……。

 その言葉が、私に重くのしかかる。

 復讐のことしか考えていなかったけれど、今になって私はようやく、自分のしてしまったことの重大さを認識していた。

 段々と、後悔する気持ちも湧いてきた。

 

 こんなことになるくらいなら、復讐なんてせずに、もっと真っ当に生きればよかったわ……。


     *


「うーん、疲れたわ」


 事件も解決したので、私は屋敷に向かって歩いていた。

 

 犯人が捕まり、命を狙われる心配はなくなったので、シェリルハーレムは解散した。 

 現在はマッチョくんと二人きりで、並んで歩いている。


「そう言えばお嬢様、よくダイヤのことに気付きましたね」


「最初から、彼女を見て何か違和感は感じていたのよ。それで、あるきっかけがあって、ダイヤのことを思い付いたの」


「きっかけですか。いったい、どんなきっかけだったのですか?」


「うーん、なんか、改めて説明するのも、恥ずかしいわね……。まあ、いいわ。えっとね、私って時々、調子に乗ったり、ふざけたりするでしょう?」


「ええ、そうですね」


 いや、そこは少しは否定してよ。

 確かに同意を求めたけれど、そんなにあっさり肯定しないでよ。

 まあ、いいわ……。


「それで、証拠を探そうと思って資料を見ながら、心の中でつぶやいていたの。証拠証拠証拠胡椒胡椒証拠ってね……。まあ、その時は証拠は見つからなくて、思わずミランダの高笑いする顔を想像してしまったのよ。それで、最後に笑うのが彼女だなんて、そんなの嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だって、思ったの」


「はあ、そうですか……」


 マッチョくんは、それが何なのだとでも言いたげな表情で、私を見ていた。

 しかし、数秒後にはその表情も変化した。


「ああ……、そういうことですか……」


 彼は、少し笑っていた。


「ええ、そういうこと……」


 私は彼のその表情を見て、笑顔になっていた。

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パーティ会場で婚約破棄を言い渡されましたが、その話をあまり聞いていなかった結果 下柳 @szmr

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