第10話

 己の咎を他人に擦りつけ、身代わりに一枚また一枚と無抵抗に濡れ衣をまとわされてゆく彼女から目を逸らし、早くこの時間が過ぎ去ってくれればとそればかりを願っていた。

 彼女は僕の他愛のない妄想を好きだと言ってくれた。だけど僕はその友だちの窮地に手を差し延べようともしなければ、足がすくんで、一目散にここから逃げ出す臆病者にすらなりきれなかった。ほかのクラスメイトたちだって正義のヒーロー気取りで、あえて和気わき藹々あいあいとしたその場のムードをぶち壊すつもりはなかった。

 そのさなか、飯野先生が次の授業のためにやって来た。教室内では今西さんの拙い音読が、僕の出来損ないをいよいよ出来損ないたらしめている。飯野先生はその有様に一瞥だけくれて、黒板に島崎藤村の『破戒』の一節をすらすらと達筆で書き上げた。

 放課後、僕の机の中にはいつの間にかあの茶色いノートが入れられていた。切り離されたページがセロハンテープですべて元どおりに貼り合わされた状態で。そして彼女はいなくなった。


 はその日を境に、僕の前から忽然と姿を消した。まるであの不気味な雲が翌日にはすっかり青空に掻き消されてしまったように。

 彼女は本当にそこにいたんだろうか。ノートをいくら読み返してみても、あの屋上でのひとときは日に日に既視感に塗り替えられてゆく。それに引き換え、この胸のしこりはいつまで経っても生々しい輪郭を残していた。

 彼女はどんな顔をして、どんな声をして、どんなふうにして僕の前に立っていたのか。もうよく思い出せない。無遠慮にこじ開けられたトビラはタガが外れたみたいに、バタン、バタンと、開いたり閉まったりを空しくくり返している。

 あのとき僕は声を上げ、僕こそがその張本人なのだと名乗り出るべきだった。物語の中の僕なら、たぶんそうしていただろう。ただ僕はそうじゃなかった。彼女は余計な僕の分の秘密まですっかり呑み込んで行方を暗ませた。おそらく二度と、僕が彼女に会うことはないのだろう。


 僕以外のだれかが、きっときみを救い出してくれる。


 そんな無責任な祈りを込めて真新しいページにペンを走らせた。無我夢中になって。それがはたして正しいのか、どんな意味を持っているのか、そんなものは僕には分からない。けれど柄にもなく僕は初めて、これをやらなければと、そうすべきなんだと、自らの意思でなにかを始めようとしていた。

「大野くん、
















































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イデアノート 会多真透 @aidama

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