もしもこうなっていたら IFシリーズ
第16話 IF最終回 子猫のいた生活
15話の最終回の途中で分岐するIFストーリーです。
悲しい終わり方が嫌という人は読まないでください。
前半は15話と同じです、後半だけ新しく書きました。
――――――――――――――――――――――――――――
車の前に来た時突然、後ろから『キャー』という悲鳴が聞こえた。
俺は振り向くと少し先から野球帽をかぶった人が走ってくる、手に何か持って前に構えていた、よく見ると包丁のようなものだった。
俺はとっさに
お腹に鈍い痛みを感じ視線を下げるとぶつかってきた人が持っていた包丁が刺さっていた。
「うっ、なにを」
「俺の楽しみとエンジェルを奪ったお前に対する天罰だ。」
ぶつかってきたのは若い男だった、そしてわけわからないことを叫んだ。
辺りで叫んだり助けを呼ぶ声が聞こえて、視界の端に警備員が数人走ってくるのが見えた。
茶羽と黒羽を見ると座ったまま目を見開いて俺の事を見ている。
俺は立っているのもつらくなり座ろうとすると警備員に支えられ寝かされる。
茶羽と黒羽も俺に近づいてきて腕にしがみついてきた、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
どこかで俺を刺した男の笑う声と数人の男性の怒鳴り声、あとは悲鳴のようなものと救急車はまだかと怒鳴っている声が聞こえてきた。
茶羽と黒羽も泣きながら俺の名前を叫んでいる。
遠くで救急車のサイレンが聞こえてきたころ、刺された痛みが麻痺したのか痛みがなくなってきてそれから意識が遠のいていく。
『あぁ、俺はもうダメなのか、茶羽、黒羽、ごめんな』
真っ暗で何も見えず感覚もない中、どこか遠くで猫の鳴く声が聞こえていた、しばらくして猫の鳴き声が聞こえなくなると、痛みで目が覚める。
目を開けると知らない天井、目線をずらすとそこには健治と香織がいた、二人は目に涙をためていて、俺が目を開けたことを確認して健治はどこかに走っていく。
すぐ健治と白衣を着た男性が来る。
そこでショッピングモールの駐車場で刺されたことを思い出す、『あぁ、ここは病院なんだな』と思考も徐々に戻ってくる。
起き上がろうとすると健治と白衣の男性に止められる。
そこで俺は茶羽と黒羽が居ないことに気づく。
「茶羽と黒羽は・・・」
「大丈夫だから今はしゃべるな、いいな。」
俺の言葉を遮るように健治は大丈夫だと言う、だが香織は下を向いたままだった。
それを見た俺は茶羽と黒羽に何かあったんじゃないかと思った。
「茶羽と黒羽をここに・・・」
「しゃべるなって言ってんだろ、二人は大丈夫だから、俺を信じろ。」
俺の言葉を遮り健治がそう言うので俺は頷いて天井を見る、しばらくすると痛みが消えていき眠くなってくる、そして眠りについた。
夢の中に茶羽と黒羽が出てきた、二人はずっとこっちを見て何か言っている、だけど何も聞こえない。
口の動きを見ると、『おとうさん・・・・・・ありがとう、またね』途中はよくわからなかったが、そう言っているように見えた。
俺も喋ろうとするのだが声が出ない、必死に二人に近づこうとしても動かない。
どういうことかと考えるが何も思いつかない、聞こえないし声も出ないそして動けない、そんな状態に苛立ちを覚えこの状況に怒りを覚える。
しばらくして二人が徐々に消えてゆく、二人がいた場所には最初からそれしかなかったかのように帽子だけが残されていた。
俺は茶羽と黒羽に近づくことも声をかける事も出来ずにただ消えていくのを見ているしかなかった、消えてからもその帽子に近づこうとしても動けない、『何なんだよこれは!!』そう思った瞬間、俺は目が覚める。
あれだけ痛かったお腹の痛みが無くなっている。
視線の先にある天井は寝る前に見ていた病院の天井、部屋は暗かった、視線をずらしてみても周りに誰もいない、起き上がり窓の外を見ると真っ暗で今は夜だと分かる。
そうだ俺は刺されたんだとお腹を確認するも刺された跡すらなくなっていた。
何がどうなっているのかわからなく、冷静になれと自分に言い聞かせて起こったことを思い出していく。
茶羽と黒羽とショッピングモールに行った、いつもの和食屋で焼き魚定食を食べて、オーナーさんのお店で帽子を受け取り、帰る際包丁を持った男に刺された、そしてたぶん今いるこの病院に運ばれた、そこで一度目を覚ましまた眠りについた。
そこまでは思い出した。
その後に見た夢は何だったんだ?茶羽と黒羽は何が言いたかったんだ?
そう思ったら茶羽と黒羽に会いたいという気持ちが強くなる。
そしてベットから出ようとすると、ベットの脇に何かが置いてあるのに気づく、それを見てはっとする、茶羽と黒羽の帽子だ、ここにあるという事はここに居たのだろう。
そしてまた先ほど見た光景を思い出す。
そして思わず言葉が出た。
「茶羽、黒羽、会いたい」
言葉に出したとたん止めどなく涙が出てくる、そして興奮状態になり体に取り付けてあった心電図などの機器からブザーが鳴り始める。
すると扉の向こうから数人の走る音が聞こえてきて、勢いよく扉が開かれると看護師さんや医師がなだれ込んできて部屋の電気がつけられる。
「大空さん起き上がっては駄目です、落ち着いて安静にしてください」
看護師さんの一言に涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげると、看護師さんは一瞬驚きつつも、すぐに服をまくって傷口を確認する、次の瞬間、医者も看護師も目を見開き固まっている。
傷跡すらない状態だったのである、
「君、すぐに検査の準備を」
「はい」
看護師はすぐに病室を出て走って行った。
「こんなことありえない、どうなってるんだ」
医者は傷一つない俺のお腹を見ながらつぶやいていた。
翌日、検査の結果内臓まで達していた傷が綺麗に無くなっていて体も健康そのものだという事が分かり、翌日には退院することとなった。
退院の時は健治や香織も来てくれて車を出してくれた。
自宅に着くと玄関には茶羽と黒羽の予備の靴が置いてあった。
そして部屋にはパジャマや着替えが・・・。
健治に聞いても香織に聞いても、茶羽と黒羽は救急車で運び込まれて病室に移った時までは居たが手続きなどで二人が離れ戻った時には居なかったという、辺りを探したが見つからなかったらしい。
健治が気を利かせて警察に迷子届を出してくれていたので、すぐ見つかるよと励ましてくれていた。
そして二人が帰った後テーブルに着いた時、ふと数枚の紙が目に付く、茶羽と黒羽の住民票と戸籍謄本だった。
それを見てまた俺は涙が出てきた。
「茶羽、黒羽、どこ行ったんだ、お前たちが居ない家なんて寂しいよ、笑って出て来てくれよ」
そして机に突っ伏したまま寝てしまい気づいたら朝になっていた。
慌てて家の中をすべて探したが茶羽と黒羽の姿はどこにもなかった、そして茶羽と黒羽と生活していたという痕跡だけが見つかる。
茶羽と黒羽の居た生活、短い間だったが現実だったと思い知らされて俺は泣き崩れるのであった、そして思い出したかのように茶羽と黒羽が居たという痕跡を探して家の中をさまよい続けていた。
いつまでも、いつまでも・・・・・
子猫のいる生活 菊花 @kikkachan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます